七十七日目


七十七日目


 まずい、冒険者に目をつけられた。


 今日あたりからそろそろ太郎丸に乗って移動しても大丈夫かな。

 そう思って出発準備をしていたら、また後ろから冒険者がやってきた。


 今度のは二人組の若い女の人だ。

 片方は長い剣を背中に背負ったいかにも剣士って感じの人で、もう片方は弓と矢筒を下げてるけど学者風の人だった。


 どっちも二十代半ばくらいかな?

 女の人の冒険者って初めて見た気がする。でも冒険者と接触してもろくなことにならなさそうだから、あまり見ないようにした。

 向こうも一度は通り過ぎていったんだけど……。


 学者っぽい方が私を指さして、冒険者は戻ってきてしまった。


 うわ、どうしよう。

 髪の色は見られてないと思ったんだけど、どっかからはみ出してたのかな。


 一応ナイフ投げくらいはできるようになったけど、冒険者とケンカして勝てるとは思えない。

 かといってM-1なんか使ったら殺しちゃうし。どうしよう、逃げられるかな。


 姫ニャンが私を守るように前に出てうなり声を上げる。

 これは、先に太郎丸に乗れってことだ。

 でも向こうも馬に乗ってるから、二人乗りで逃げられるかは賭けだね。特に、弓を持ってるのが怖い。


 めちゃくちゃ警戒する私たちを見ると、意外なことに冒険者たちは両手を挙げて近づくのを止めた。


 それから学者の方が自分の荷物を示して、ゆっくりと中身を取り出す。


 そこから現れたのは、なんと拳銃だった。


 さすがに銃口を向けられはしなかったけれど、でもそれは銃の使い方を知ってるってことでもあると思う。


 学者風冒険者は私……というより、私の後ろの太郎丸、その荷物に紛れたM-1を指さした。『ほらほら同じ種類のやつでしょ?』と言わんばかりである。


 これは、もしかして私の世界の遺物を探してる系の冒険者か?


 私は姫ニャンと顔を見合わせる。


 今のところ敵意はないみたいだけど、私の世界の遺物蒐集をしているならM-1欲しさに襲ってこないとも限らない。

 でも、まともに会話してくれるならこの世界の情報が手に入る。


 少し考えてから、私はフードを外すことにした。

 白髪を見たときのこいつらの反応でどうするか決めよう。最初に嘲笑を浮かべる手合いならナイフ投げつけて逃げる。


 果たして、白髪を見せると冒険者たちは驚いた顔をしたけれど、嘲笑を浮かべたり襲ってきたりはしなかった。


 ……ひとまず、会話くらいはしてもよさそうかな? いや会話できるのは姫ニャンだけれど。

 一応、いつでも逃げられるように太郎丸の近くからは離れないようにしとこう。


 私が応じる姿勢を見せると、冒険者たちもホッとしたみたいに近づいてきた。


 でもまあ、言葉が通じないことに気付いて二人して頭抱えてた。

 商人さん相手だとしゃべる必要はなかったけど、普通に接したらまずそこで躓くよね。


 私が身振り手振りで意思の疎通を図ると、向こうもだいたい察してくれたみたいだ。

 同じように身振りとかを交えてコミュニケーションを取ってきた。


 会話はもっぱら学者風が担当した。

 剣士は護衛みたいなものかな。雇用関係というよりパートナーみたいだった。


 学者は私の世界の遺物らしきものをたくさん見せてくれた。

 この前もらったオイルライターもあれば時計や乾電池(水銀の漏れたマンガン電池だったよ)、少ないけど弾薬なんてものもあったよ。

 よくもこんなに集めたもんだね。


 学者は遺物を示して遠くを指さす。

 どうやら遺物を探してこの辺りを探索してるみたいだね。


 私が地図を出すと、向こうも現在地らしき地点と地図の空白部分を円で囲って目的地を示してくれた。

 で、私とM-1を指さす。


 どうやらM-1の入手場所を聞いてるみたいだ。


 とはいえ、私もこれ魔法使いから奪ったものだからどこで見つけたかはわからないんだよね。

 どう説明したものか。


 異世界生活七十七日目。私の絵は冒険者にも理解されなかった。

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