六十五日目


六十五日目


 嫌な予感に限って的中するもので、雨が降ってきたよ。


 私たちの装備は雨の中を進めるものじゃない。

 レインコートもなければ傘もないし。マントはあるけれど、大雨の前には気休め程度でしかない。

 太郎丸に乗って走るというのは無理な話だった。


 昨日の夕方ごろにポツポツと降り始めたから、ちょっと丘っぽくなってるところを探してテントを張ったんだ。


 そうしたらやっぱりというか、朝にはバケツをひっくり返したような大雨になっていたよ。


 このテント、どれくらい耐えられるのかな。

 ロウか何か塗ってあるみたいだけど、材質は布なんだよね。

 少しだけど雨漏りもしてきてるから食器――冒険者の荷物の中にあった――を受け皿にしてるけれど、どこまで保つか。


 あと太郎丸を外に繋いだままなんだよ。馬って雨に塗れても大丈夫なのかな。


 心配になってちょっとだけ様子を見てみたんだけど、なんというか平然として草食べてたよ。

 怖がってるようにも見なかったし、ひとまず放っておいて大丈夫なのかな?


 しかし移動ができないとなると、途端にすることもなくなってしまう。


 姫ニャンも雨に濡れるのは嫌いみたいで、テントの真ん中で丸くなって動こうとしなかった。


 仕方がないので私も姫ニャンの隣で丸くなる。


 どうしよう、なんだかすごく庇護欲の湧く笑顔を向けられてしまった。


 そういえばこんなふうに何もせずにのんびり過ごすのって、久しぶりな気がする。

 いつ以来だろう?

 オークさんの集落から避難してからは、初めてかもしれない。


 姫ニャン、毛並み綺麗だな。


 私の髪なんてもうバサバサになっちゃってるのに、姫ニャンの髪はいつもツヤツヤしてる。


 そういえば肌荒れもひどいな。指先とかささくれだらけだしなんか硬くなってきちゃってるし。


 私、一応女の子なんだけどね。

 まあ主食は魚と木の実という偏食ぶりだから栄養バランスも相当悪いだろうから仕方ないけど。


 お米食べたいな。


 あとお味噌汁とか。


 人間の町にたどり着けたら食べられるかな?

 いやどのみちお金持ってないから無理か。


 ぼんやりそんなことを考えてたら、姫ニャンがとうとつに頬ずりしてきた。


 思わず「ぴゃっ」て変な声出しちゃったよ。


 慰めてくれたのかな。


 お礼に私も頬ずり仕返したら、なんか恥ずかしそうな顔をしてた。

 自分からするのはいいのに自分がされるのは恥ずかしいの?


 なんだか弱点を発見した気分で、ほっぺたを撫でてみた。


 いやこれは効かなかったみたいだ。逆にすりすりされてしまった。

 まあこれはこれで可愛いのでよし。耳も嬉しそうにピクピク震えてるし。


 そういえば姫ニャンの耳ってどんな感触なんだろう。

 ちょっと触ってみてもいいかな。


 思い切って耳をつまんでみたら、姫ニャンはビクッとして体を伸ばしていた。


 えー、何その反応。もっとやってみたくなるじゃないの。


 思わず笑っちゃったら姫ニャンに睨まれちゃった。

 うん。イタズラはほどほどにしておこう。


 イタズラ禁止令ということなのか、手をキュッと握られてしまった。

 姫ニャンの手は柔らかいしあったかい。


 そんなことをしているうちに眠たくなって、いつの間にか寝てた。


 異世界生活六十五日。雨なので今日はお休み

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