六十四日目
六十四日目
いかん。オークさんの集落を出発して二週間近く経つのになんの成果も上げられていない。
魔法使いの襲撃ポイントから往復で三日もかからないはずなのに、何をやってるんだろう。
というわけでいい加減、冒険者にビビるのもやめて元の道へと邁進しているよ。
進路は東に取った。
これまでの時間を大幅にロスすることになるけど、これ以上迷子になるわけにはいかないから、来た道を戻ることにしたんだ。
とはいえ、今現在の私たちの位置がどれくらい外れてるか、いまいち見当がつかない。
草むらの中を進んできたからそんなに速度は出してなかったとか思うんだけど、それでも太郎丸は馬だからね。
歩いてたって人間が走るくらいのスピードあったんじゃないかな。人間の走る速度って時速三十キロくらいだったっけ?
それで陽が昇ってる間の半分くらいは走ってたから一日五、六時間くらいってところかな。
三日間西南西の方向に走ったってことは……ひえっ、六百キロ近く走ってたことになるんじゃ……。
え、日本の本州の長さって何キロだっけ?
それ以上ってことはないとは思うけれど、県をいくつも跨ぐくらいの距離はある。北海道横断くらいしてる距離かもしれない。
これはマズいかもしれない。
そりゃあ猫耳族の村とかもあったりするよ。というかなんでそれだけ走って村ひとつしか見つかってないんだよ。この辺りどれだけ辺境なの?
時速三十キロという計算が間違えているのかもしれないけれど、馬という生き物の移動距離を甘く見ていた。
そんなわけで、草むらの中で速度を出すのは怖いけど少し太郎丸を急がせることにしたよ。
いつ冒険者たちに出くわすかわからないから、フードはしっかりかぶっているよ。
髪を隠せるくらい深くかぶると視界が悪くなるから、あまりやりたくはないんだけどね。
どうか途中で人間の町が見つかりますように。
でも走ってる間はすることないから、またこの世界について考えてみた。
ここまで走って草むらが途切れることはあったけど、基本的にはずっと草原だった。
ということは、ここは日本みたいな島国じゃないってことだよね。
景色はなんとなく元の世界でいうところの南米とかみたいな印象はある。
といってもテレビのイメージだからいい加減なものだけどね。
気候的にはどうなんだろう。
湿度はかなり高い気がするけど、ここに来てからまだ雨にお目にかかってない。
……まあ、ここでの時間の大半はオークさんの集落で過ごしたから当然か。
あの辺りは空気も乾燥してて荒野だったし。
草原が広がってるということは土壌の水分は豊富なんだろうけど、地下水でも湧いてるのかな。
ちょいちょい川とか湖は見かけるから、食料や水もそこで調達していたんだけど。
いやでも待てよ?
小さい川や湖が点在してるってことは、この辺り定期的に冠水してたりするんじゃないかな。
思えばここ数日、空が暗い。
……うわ、これはなおのこと先を急がないと危ないかもしれない。
でも逆に考えれば標高が高くなっている方へ向かえば人里があるってことじゃないかな。
冠水を避けようとしたら丘の上とか地面が高くなってるところに住むしかないんだから。
よし。進路は東に向けつつ、地面が高くなっているところを探そう。
異世界生活六十四日目。ポツポツと、頭の上に滴が落ちてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます