六十二日目
六十二日目
うちは猫飼ってなかったけど、私は猫が好きだから調べたことがある。
猫の発情期は年に三回。一月から八月くらいの間に訪れるものらしい。
私がこの世界に放り込まれたのはたぶん春先くらいの時期。
二月の終わりか三月の頭くらいの季節だったように思う。元の世界はそろそろ十二月かな。
それからふた月ばかり経った今は、五月に入ったかそこらくらいだろう。
だからなんだってわけじゃないけど、ちょうどそういう時期でもあったみたい。
ああもうどうしようか。
昨日はあれから鳴き声が聞こえないところまで逃げてそのままテントを張って寝たんだけど、姫ニャンともなんだかギクシャクしちゃってる気がする。
正直、もう一度あの村に戻る勇気はないんだけど、せっかく見つけた村だ。
もしも冒険者たちの……なんだろう、便宜上ギルドって呼んでおこうか、そういう組合があるなら私の本来の目的――オークさんたちは討伐されたという嘘の報せをすることができる。
でもなあ、さすがに今のあの村に入るのはなあ。
姫ニャンだってものすごく気まずい顔してるし、ちょっとなあ。
いやでも、私ひとりで向かう分には問題ないんじゃないかな?
種族違うし、さすがに襲われたりしない……よね?
ええい、うだうだ悩んでも仕方がない。
ここは当たって砕けろだ。たぶん命の危険はないはずだし!
でも私が村の方に進路を取ろうとすると、姫ニャンから猛反対を受けた。
ただ腰にしがみついて頭ぶんぶん振るのは止めて!
なんかいろいろ当たってるし振動するし私が発情期になっちゃう!
うーん、ここまで嫌がってる姫ニャンを無視して村に行くのはさすがに気が引けるなあ。
ギルドっぽい施設があるとも限らないし、ここは姫ニャンに従って違う道を行こうか。
そんなことを考えてたら、近くの草むらからガサガサって音を立てて知らない人が出てきた。
いや人っていうか、猫耳族だ。
姫ニャンとは違って虎柄尻尾と茶色の無地の尻尾の男二人。
手にはクローの付いた手袋みたいなのをしていて、いかにも戦士って感じだ。たぶん、周囲の巡回とかしてるんじゃないかと思った。
村の人なのかな? この人たちは発情してないみたいで、会話ができそうな感じだった。できないけど。
私は手配書の羊皮紙を見せてギルドっぽいところに行きたいってジェスチャーを示したんだけど、この人たちは私の方を見ていなかった。
男の猫耳族は姫ニャンを蔑んだ目で見ていた。
姫ニャンはハッとしたみたいにマントのフードをかぶるけど、男たちは指をさして笑っていた。
なんなのこいつら。
すっごく感じ悪いんだけど。
挙げ句の果てに、姫ニャンを蹴飛ばしてきた。
それを見て、頭の中でプチって何か切れる音を聞いた気がするけど、よく覚えてない。
気が付いたら私はナイフを抜いて怒鳴り散らしてた。
たぶん「私の姫ニャンに何してんだゴルァッ」とかそんなこと叫んでた気がする。
その剣幕に気圧されたのか、二人の猫耳族男は逃げていった。
まあ、言葉通じなくても刃物振り回して怒鳴り散らしてるやつがいたら近寄りたくないもんね。
猫耳族男がいなくなっても姫ニャンは震えてたから、今日は珍しく私の方が抱きしめて慰めた。
私たちの気分を表したみたいに、空には黒々とした雲が広がっていた。
異世界生活六十二日目。猫耳族でも野蛮人はいるらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます