六十一日目


六十一日目


 どうしよう。道に迷ったかもしれない。


 街道を見つけてから油断してサイコメトリーでの確認を怠っていた。

 それに加え、冒険者たちを避けて街道を大きく外れてしまった。


 一応西南西の方向にずっと走ってきた(コンパスだけは確認してた)から、その逆を辿ればいずれ元の位置には戻れると思う。


 ただ、この三日分くらいの行程が無駄になってしまう。


 街道は南の方に見えていたんだから、ここから南下すればそのうち見えてくるんじゃないかな。

 いやでも、もう迷子になってるんだから横着せずに引き返すべきだろうか。


 立ち往生して悩んでると、風に乗ってなんだか聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。


 なんだろうこれ? 私には猫の鳴き声に聞こえるんだけども……。


 姫ニャンと顔を見合わせると、姫ニャンにも聞こえてるんだろう。猫の耳を忙しなく左右にゆらしていた。


 猫耳族の声かなとも思ったけど、姫ニャンはそういう本物の猫みたいな鳴き声はあまり上げない。

 たまにそういう声も出すこともあるけど、会話するみたいににゃーにゃー言ったりはしないんだ。


 まあ言葉をしゃべれるんだからその必要もないのかな。

 私、相変わらず言葉わからないけど。


 私が鳴き声の方を指さしてみると、姫ニャンはなんだか複雑そうな顔をしたけど、頷いてくれた。


 どうしたんだろう。猫耳族は猫が苦手だったりするのかな?


 でもこの世界の猫ってやつに興味がある!


 私は鳴き声の方向に太郎丸を走らせた。


 ああ、一応コンパスの方角もメモしておこうか。

 奇しくも現在地から南南東の方向だよ。運が良ければこのまま街道に戻れるかもしれない。


 一時間くらい走ったかな。


 そこにあったのは、猫じゃなくて猫耳族の村だった。


 オークさんの集落よりもだいぶ規模は大きい。

 家も百軒くらいあるんじゃないかな。

 それに比例して人口も多そう。千人はいないと思うけど二、三百人くらいはいるんじゃないかな。


 家屋は木製で、屋根は茅葺きって言うのかな?

 なんか大昔の日本民家みたいな屋根だった。


 遠目にそんな景色を眺めて、姫ニャンが複雑そうな顔をした理由を察した。



 なんというか、この村、発情期の真っ最中らしかった。



 ひえぇ、こんな真っ昼間から公共のど真ん中であんな丸出しで……あうっ。


 私があうあう言いながら硬直してたら、姫ニャンに目を塞がれてしまった。

 そうだよね。

 同族のそういうの見られるの、嫌だよね!


 ちょっといたたまれない気持ちになって、私たちはその場から逃げ出した。


 でも顔真っ赤にしてジト目で睨んでくる姫ニャンは、なんていうか……下品なんですけど……ふふ……可愛かった!


 姫ニャンでもああいう顔するんだね。


 この気持ちはSっ気になるんだろうか、Mっ気になるんだろうか。


 いろいろ気が動転するようなものを見せつけられてしまったけれど、そんな姫ニャンを見られたのだけはよかったよ。


 異世界生活六十一日目。破廉恥なものを見てしまった。


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