六十日目


六十日目


 やあ、ナイフ投げを体得した私だよ。


 道を外れてしまったせいで旅程は遅々とした歩みになっている。

 またオークさんたちの討伐令が出るかもしれないことを考えるとあまりのんびりはしていられないんだけれど、先日の冒険者たちと遭遇するのは怖い。


 というわけで遠回りのついでにナイフ投げを練習してみたんだ。


 残念ながら、手持ちのナイフは投げナイフとしては使われなかったみたいで、サイコメトリーでそういった記憶を読むことはできなかった。


 でも手斧投げと通じるところはあったんだよね。

 夕方から木に向かって投げていたら、わりと当たるようにはなった。


 ただ、ナイフっていうのは的に当たっても刺さらなければダメージを与えられない。


 まあただぶつかっただけでも痛いとは思うんだけど、殺傷力が伴わないんだよね。

 それでちゃんと刺さる確率は半々くらいだった。


 なんというか、ナイフ投げは投げ方よりも距離というか間合いみたいなのが重要なのかもしれない。

 全然刺さらないと思っても、半歩前に出たら全部刺さるようになったりした。

 その辺りを投げる前に判断できない辺りが、やっぱり付け焼き刃ってことなんだろうね。


 手斧に比べたら確実性は下がったんだけど、軽いから使い勝手はいいかもしれないね。あと相手を殺す可能性がいくらか低いのもいい。

 まあ、使う機会なんてないのが一番なんだけど。


 いずれにしろ、サイコメトリーで覚えた技術もちゃんと反芻と練習を重ねれば自分のものにできるってことが立証できたよ。


 手持ちというか、冒険者の遺品から手に入れたナイフは四本。

 ただ鞘とかないやつもあるから携帯方を考えないとだね。

 それに刃渡りも違うから一概に同じ感覚で投げられるわけじゃないのも気をつけないと。


 というわけでまた冒険者の荷物をガサゴソあさってみる。


 ナイフを使うからにはあのアニメとかでよく見る太ももに巻き付けるホルスターみたいなのが欲しいんだけど、やっぱりそれそのものはないか。


 でも革製品のベルトとかはあった。


 あったのは腰に巻く用の普通のベルトだったけど、金具とかの構造は私の世界とあまり変わらないみたい。

 長さの調節はできた。


 あとは元々鞘があるものは革製だから、ちょっと穴を空ければベルトにくっつけるのは簡単だった。

 鞘がないものはベルトの残りで輪っかを作ってなんとかくくり付けられるようにしたよ。


 というわけでクールキャラ定番、スカートの中に仕込む投げナイフセットが完成したよ。ニートがクールキャラとか片腹痛いって?

 余計なお世話だよ。


 手持ちのナイフはサイズが不揃いだったから右足に三本、左足に大振りのやつを一本という感じに分けてくっつけた。

 刃の部分が当たると怪我しそうだからつけるときは気をつけないといけないよ。


 ひとまず太郎丸に乗っても問題はなかったから、しばらくはこれが標準装備になるかな。


 しかし私、草むらを進むと擦り傷だらけになっちゃうから手とか足にボロ布を包帯代わりに巻いてるんだよね。


 仕込みナイフにマントに手足包帯って、厨二病スタイルまっしぐらだね。

 あとは眼帯があればフル装備だよ。元の世界の知り合いにバレたら死ねるな。まあ、それも元の世界に戻れればの話だけれど。


 最後にM-1は荷物といっしょにくくり付けた。ベルトはついてなかったし、そっちに回す予備まではなかったからね。


 異世界生活六十日目。装備を一新したよ。


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