五十九日目


五十九日目


 銃を知らない人が見たら、見えない雷でも落としているように見えるかもしれない。


 なんでこの世界にこんなものがあったのかは知らないけど、魔法使いはこれを魔法の杖だと思ったんだろうね。


 でもこれを振り回しても魔法の効果は強くなったりしないよ。

 魔法が強かったのは、あの魔法使いが強かったからだ。


 そんな魔法使いにどうして目潰しなんて効いたのかという疑問はあるけれど、なんでもかんでも防げると呼吸もできなくなるだろう。

 だからある一定以上小さなものは防げないとか、そういう理屈だったのではないかと思う。


 実際、砂だけじゃなくて弾丸も防げなかったわけだし。

 確かめる術はもうないけれど。


 M-1には弾が四発残っていた。

 ゲームの通りなら、これの装弾数は十発だったはずだから、もう半分も残ってないことになるかな。


 そんなことを思い返していたら、ため息がもれた。

 姫ニャンが心配してほっぺを舐めてくる。優しい。


 私が撃った一発で、今度こそ魔法使いは倒れた。


 でも、問題はそのあとだった。


 冒険者たちは動けなくなった魔法使いをよってたかってなぶり殺しにした。

 文字通り、八つ裂きだった。


 撃った私が言うのもなんだけど、やっぱり冒険者は野蛮人だ。


 こうなったのは私が原因ではあるけれど、気の毒な魔法使いが殺されている間に私は逃げ出した。

 魔法使いの杖を使ったんだから、次に私がそうされない理由はないもの。


 結局M-1はそのまま持ってきてしまった。


 でも手斧は回収できなかった。


 弾かれた手斧は魔法使いのすぐ傍に落ちていたし、探しに戻るのはリスキー過ぎた。

 せっかくオークニキといっしょに研ぎ直したのにな。


 まあ、仕方がない。代わりにナイフ投げでも覚えよう。


 昨日はとにかく冒険者たちから距離を置きたかったから、道が見えなくなるところまで逃げてから野宿をしたよ。

 チキンハートに私は先を急ぐような精神力は残ってなかったんだ。


 というわけで、今日は道なき道を進んでいるよ。


 魔法使いはもういないんだから、元来た道に戻ればいいんだろうけど、冒険者たちと鉢合わせたら何をされるかわからないし。


 でも、姫ニャンがマントを買うように勧めてくれてよかった。


 昨日もフードをかぶってたから顔とか髪の色とかは見られてないと思う。

 まあ、制服くらいは見えただろうから、あまり安心はできないけれど。


 しかし、この銃どうしよう。


 この銃は、やっぱり私と同じようにこの世界に放り込まれた人の遺品だった。


 断言できるのは、サイコメトリーでその記憶が見えたからだよ。

 残弾を確かめようとしたら発動しちゃったんだ。


 持ち主さんは第二次大戦中の人だったのかな。

 塹壕みたいなところで戦ってる記憶だった。


 周りにいたのはみんな白人だったけど、国まではちょっとわからないかな。

 確かM-1ってアメリカ製だったと思うんだけど、連合国側じゃ広く使われてたはずだから。


 しゃべってたのはたぶん英語だと思うんだけど、何言ってるかはよくわからなかったよ。

 フ○ックとかファイア(撃て)とかは聞き取れたけど、それ以上は中学英語のヒアリングじゃついていけなかった。


 彼がこの世界でどういう最期を迎えたのかはわからないけれど、魔法使いはこの銃を丁寧に手入れしてたみたいだ。

 部品が錆びたりはしてないし、銃身もたぶん歪みとかはないように思う。歪んでたら暴発してただろうし。


 ただ、持ち主さんがこの世界に来たのっていつごろの話なのかな。

 本物の銃なんて見るのは初めてだけど、そんなに古いものにも見えないんだよね。弾薬も無事だったし、少し気になる。


 うん。ひとまずこれは私が預かっておくよ。


 異世界生活五十九日目。今日ものろのろと道なき道を行く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る