五十八日目


五十八日目


 昨日に引き続き、道を外れて進んでいたらすごい音が聞こえた。


 雷みたいな音だったけれども、空は晴れてる。

 他にあんな音がすることってなんだろう。ガリガリガリって感じの音だったから銃とかじゃないとは思うけど、大砲とか?

  合戦とかで大砲を使ってるならありそうだけど、そんな感じでもなかった。距離も近そうだったし。


 私と姫ニャンは太郎丸から降りて慎重に進むことにしたんだけど、しばらくして煙が立っているのを発見した。


 たぶん、誰かが襲われてるんだと思う。


 商人さんが襲われてから三日も経ってるからまた違う人たちだろうけど、どうしよう。

 助けたい気はするけど、私には暴力に訴えるような技術はない。


 でも何が起きているのかは確かめておきたい。


 私は太郎丸を姫ニャンに任せて煙の元に近づいてみることにした。

 この世界に来て以来、匍匐前進には慣れているからね。


 ただまあ危険に首を突っ込むことになる。

 これを読んでいる君、これが最後の日記にならないよう祈っていてくれ。




 近づいてみると、何だか怒鳴り声が聞こえた。

 あと争うような音もだ。金属っぽい音もあれば雷みたいな音も聞こえたし、なんなら光ったりもしてた。


 誰かが戦ってるんだろう。


 そこに考えなしに顔を出したらこっちまで攻撃されるだろうってことくらい、私でもわかる。

 だから草むらの中からそっと覗いてみたんだ。


 戦ってたのは冒険者数人と……魔法使い? みたいな格好の人だった。


 いや、比喩じゃなくて魔法使いだあれ。杖から電撃バンバン出してる。

 この世界、やっぱり魔法とかあるんだね。


 ……うん? いやあれ?

 杖っていうか杖じゃない。


 どうしよう。私は〝それ〟がなんなのか、たぶん知ってる。

 魔法使いの人、思いっきり使い方間違えてるというか、あれ杖にしてもなんの意味もないと思う。


 私が顔を覗かせているのは、魔法使いの後ろ側だ。

 ちょっと顔を横に向ければ見えてしまうだろうけど、今はまだ気付かれていない。冒険者も魔法使いの相手に忙しくてこっちに気付いてないみたいだ。


 冒険者の方は魔法を使えないのか、苦戦してるみたいだった。

 二人ばかり倒れてるのも見える。

 倒れてる冒険者は、商人さんの死体と同じような傷を負っていた。あの火傷みたいなの、魔法の雷でやられたんだ。


 冒険者には良い感情を覚えていない。


 でも、商人さんを殺したのはあの魔法使いだよね。

 一回買い物しただけだし仇を討つ義理もないけど……いや、あるよ。あの人、私にこの世界の数字教えてくれたじゃないか。


 決めた。冒険者の味方をするわけじゃないけど、あの魔法使いはやっつける。


 私は魔法使いに手斧を投げつけた。

 と言っても、さすがに殺すような度胸はないから肩を狙った。


 でも攻撃の魔法があるなら防御の魔法だってあるよね。

 私の手斧は見えない壁みたいなのに弾かれてしまった。障壁持ちとか無理ゲーでしょ。だから冒険者もやられてたんだ。


 でも驚かせるくらいの効果はあったらしい。


 反射的に振り返った魔法使いに私は砂を投げつけてやった。

 特に考えがあったわけじゃないけど、障壁は手斧は防げても砂は防げなかったみたい。殺傷力がないからかな。

 とにかくもろに目潰しが入った魔法使いは〝杖〟を取り落とした。


 私は飛び出して地面に転がった〝杖〟を取り上げた。


 冒険者たちは一瞬戸惑ったけど、いきなり飛び出してきた私より魔法使いを倒す方を優先してくれた。

 魔法使いはめちゃくちゃに魔法を放って暴れる。

 冒険者たちもバッタバッタとやられてしまう。


 冒険者が囮になっている間に、私は照準を定めて魔法使いの肩を撃った。



 魔法使いが杖だと思って振り回していたものは、私の世界ではM-1ガーランドという名前の古い銃だった。



 異世界生活五十八日目。FPSやっててよかった。

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