五十二日目
五十二日目
オークニキも無事旅ができそうなくらい回復した。
というわけでこれからオークさんたちの避難所に向かうわけだけれど、ごめんね。私は今は行かないことにしたよ。
やらなければいけないことがある。
人間の私にしかできないことだ。
私はオークニキたちを助けたい。
子供オークくんやオークママたちだって、きっと生きてる。
生き残ったみんながこれ以上傷つかなくていいように、守りたいんだ。
異世界に反抗すると言ったわりにはちっぽけな望みかもしれないけれど、ちっぽけな私には大きな望みなんだ。
このまま避難しても、冒険者を返り討ちにされた人間たちはまた次の冒険者を送ってくるだろう。
次はもっと強かったり数が多かったりもするだろう。
万が一にもそれを退けちゃったりしても、最後には国の軍隊――人間が村以上の単位で生活する以上、国という組織は必ず存在する――とかがやってきて、逃げようもないくらいの暴力で滅ぼされることになるんだと思う。
まあ、私はこの世界に於ける人間の情勢というものを知らない。
もしかしたら魔王みたいな超常の存在とかと戦ってたりして、この辺もなんか辺境っぽいからちまちま冒険者が送られてくるだけって可能性もある。
異世界転生なんてものは本来、魔王への特攻兵器として使われるべき設定だからね。あいにく私にはそんな力ないけど。
じゃあ、ここで私にできることはなんなのか。
避難中に襲われてから、私はずっと考えてきた。
考えて考えた末、私はひとつの方法を思いついた。
そのためには、人間の町に行く必要がある。
そのことをオークニキと姫ニャンに説明――まあいつも通りジェスチャーと絵によるものだから正確に伝わったかは怪しい――すると、当然のことオークニキは反対した。
というか首根っこ掴まれてそのまま持って帰られそうになったけれど、最終的にはわかってくれたみたいだ。
まあ、愛想を尽かされた可能性もなくはないけど、私はこれまで見てきたオークニキはそんなふうには考えない。
だから、わかってくれたんだと思う。
オークニキは、ひとりで避難場所に向かうことになった。
そう、ひとりだ。
姫ニャンにも説明はしてみたのだけれど、私の隣から離れはしなかった。
またいっしょに来てくれるんだね。
でも、オークニキとはここでお別れだ。
私がここに帰ってくるのは、きっと難しいと思う。
そもそも上手くいかない可能性の方が高いと思う。
だからその、なんというか、お別れの挨拶というか今までの感謝を伝えたかったというか……。
お別れのとき、最後に私はオークニキにキスをした。
ファーストキスはレモンの味とかどっかで聞いたけど、私の場合は泥みたいな味がしたよ。
……いや泥の味も知ってる人は少数派かな?
恋愛感情を抱いたってわけじゃないんだけど……というか私なんかにチューされても困るかもしれないけれど、感謝を伝える方法としてこれ以上のことは思いつけなかったんだ。
オークニキ、びっくりして尻餅をついてたよ。
私だって恥ずかしかったから、そのまま太郎丸にまたがって逃げちゃった。
もしも全部上手くいったら、私はまたここに戻ってくるよ。
それでオークさんたちの避難所を探して、またいっしょに暮らしたい。
元の世界に戻ることも、諦めたわけじゃないけどね。
異世界生活五十二日目。さようなら、オークニキ。
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