五十三日目


五十三日目


 やあ、人間どもの町に侵攻中の私だよ。


 ふはははっ人間どもはオークさんたちに支配されるのだ!


 まあ、姫ニャンとふたり旅で若干テンションがおかしくなっているような気がするけれど、私は元気だよ。


 私は平穏に暮らしているオークさんたちが、これ以上襲われないようにしたい。


 達成条件は〝人間が来ない〟ということだ。


 オークさんたちは無闇に人間を襲ったりしていない。

 もちろん今回の件で恨みを持ったオークさんが人間を襲うかもしれないけど、それはオークさんたちの問題だから私が口を出すようなことじゃない。

 まあ、私の試みはまったくの無意味になるけれど、それはそれで仕方がないと思う。


 問題は手段だ。どうすれば〝人間が来ない〟状況を作ることができるか。


 あの羊皮紙と太郎丸を手に入れたとき、私は答えを見つけた。



 それは――オークさんたちは滅んだと人間に伝える――ということだ。



 冒険者たちが帰らぬ人となっても、討伐が完了していたならそれ以上の冒険者は差し向けられないはずだ。

 もちろん、確認の人員くらいは来るだろうけど、オークさんたちの集落は焼け落ちて残ってない。

 これを見たら、まあひとまずは信じるだろうと思う。


 そのために問題なのは、私には言葉がわからないこと。

 それと人間の町なんてどこにあるのか見当もつかないこと。

 このふたつだ。


 言葉の壁は、ジェスチャーと絵による筆談、あとはこの依頼書と冒険者のネームタグらしきものでごり押しすればなんとか超えられると思う。たぶん。


 で、もうひとつの問題である人間の町の場所だけれど、私の回答はコンパスとサイコメトリーだ。


 オークニキと再会してからずっと、私はサイコメトリーで太郎丸が走った足跡を辿れないか試していた。

 もちろん最初はちっとも上手くいかなかったのだけれど、三日ほど繰り返して少しコツが掴めた。


 感覚的なものだから説明するのが難しいのだけれど、サイコメトリーで読み取れる記憶は場所の影響も受けるらしい。

 冒険者が野営をした場所だったりすると、そのときの記憶が優先的に浮かんでくる。


 スマホのナビどころか道もないような場所だからね。冒険者たちも頻繁にコンパスで方角を確かめていたみたいなんだ。


 地図もあったみたいではあるんだけど、残念ながらそれを持ってたのは別の冒険者だったみたいで覗き見ることはできなかった。


 ともかくそれを辿っていけば、いずれ冒険者たちが出発した町にたどり着ける。


 これが私の作戦だ。


 書き出してみるとすっごい雑なんだけど、それでも太郎丸で人間の町に行く方法は今のところ上手くいっている。


 それに失敗しても、私自身が人間の町から得られる情報は計り知れない。


 あと、姫ニャンがいっしょに来てくれた。

 すごく心強いし、私の行動が姫ニャンの身まで危険にさらしかねないと考えたら気も引き締まる。


 というわけで道なき道を進んでいるよ。

 方角としては、集落から西に真っ直ぐ進んでいることになるかな。


 うん? 道……道かあ。

 この辺り、道らしきものとかないんだけど、人の行き来があるなら道ができるよね。

 舗装されてなくても踏み固めていれば道にはなるんだから。


 となると、やっぱりこの辺りは普段人間なんて来ない場所だってことだ。


 それに道を見つけることができれば人間の町を見つけるのはずっと楽になる。

 冒険者だって来れるところまでは道を使って来たはずだもの。


 明日からはもう少し思い切って太郎丸を走らせてみようかな。

 今日はこれまでのテストで遡れた道を慎重に辿っていってたから、太郎丸に乗ってるわりにあまり距離は進んでないんだ。


 陽も暮れてきたし、今日のところはこの辺りまででいいかな。


 さて、水場が見つかるといいんだけど。


 異世界生活五十三日目。今日も姫ニャンににおい付けされたんだけど。


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