五十一日目
五十一日目
昨日はあのあとなんとか無事に逃げ延びることができたよ。
わりと森の外に近い場所だったのが幸いしたのか、森を出たら親鹿も追いかけてくるのを諦めてくれた。
追いつかれてたらさすがに殺されてたんじゃないかと思う。
めちゃくちゃ怖かったけど、姫ニャンといっしょに逃げるのはなんだか少し楽しかったよ。
ひどい目には遭ったけれど、狩ってきた子鹿を見せたらオークさんも喜んでくれた。
オークさんが血抜きとか内臓抜いたりしてくれたから、焼いて食べることにしたよ。ちなみにたき火は私が熾した。
私もお肉は久しぶりだったから美味しかったよ。
若干のえぐ味とにおいはあったけど気にならないレベルだった。
オークニキが塩とか調味料持っててくれたというのもあるけれど、やっぱり自分で狩ったというのが大きい気がする。
姫ニャンもお肉は気に入ったみたいで、初めて三人でたき火を囲ってご飯を食べたよ。
翌朝になると、オークニキの傷もほぼほぼ完治したみたいだった。
そろそろ頃合いかもしれないね。
でも、私まだ制服破られたままだから、今日はこれを直すことにした。
太郎丸に積まれてた荷物の中に、糸があったんだよね。針はもう持ってるから、これで破れたところを縫おう。
ただ私、裁縫とか苦手なんだよね。
中学のころも通知表に2とか食らったことがあるくらい。こればっかりは姫ニャンやオークニキを頼れそうにないからね。
自分でがんばるしかない。
あと少し困ったことに、サイコメトリーが勝手に発動しちゃったんだよね。
〝縫い物をする〟という行為がトリガーになっちゃったらしい。
手斧みたいにある程度自分で使い込んでるものならそういうことも起きないんだけど、初めて触るものは勝手に発動しちゃうケースが多い気がする。
これ、無意識に発動しちゃうと使いたいときに使えない、もしくは冒険者のときみたいに命を奪うことにもなりかねない。
どうにかして自分で制御できるようになる必要があるね。
ただ、使える条件は見えてきたけれど、使わない条件みたいなのは見つかってない。
せいぜい、あらかじめその日の分を使っておくくらいかな。
でもそれじゃあ本当に使いたいときに使えない、なんて本末転倒なことになりかねない。困ったな。
しばらくはチュートリアルみたいなものだと思って諦めるしかないかな。
さて、そんなことを書き連ねているうちに制服の破れは縫い直せたよ。
見た目はなんとか服らしくはなったけれど、縫い目は汚いし前みたいな耐久はもう期待できないかな。
まったく、死んだ人の悪口は言いたくないけれど、厄介なことをしてくれたよ。
それにこの丈夫な制服をひと息に破るとかどんな力をしてるのかな。
この世界に来てからスマホと時計はすぐに壊れちゃったし、シャツも両袖千切っちゃったからノースリーブ状態。
メガネもフレームもガタガタで逆に視力下がりそう。
とうとう制服も破られて、財布の中身もお札とか破れていつの間にかなくなっちゃった。
いよいよ元の世界の遺物でまともな状態なものは、この日記と鉛筆くらいになってきたね。
でも、得られたものも多い。
見てろよ異世界め。
私はニートだけど、いつまでもやられっぱなしで黙っているほどおとなしくないからな。
異世界生活五十一日目。準備はできた。
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