十六日目


十六日目


 やあ、初めてのパーティを組んだ私だよ。


 メンバーはオークニキ他三人の若者オークさんたちだよ。魔物使いになった気分だね。現実は魔物のペットだけどそれ以上考えちゃダメだ。


 昨日のトラバサミの件、悩んだけれどやっぱり気になるからオークニキに知らせることにした。

 とはいえジェスチャーだけで伝えるのは無理があるから、現場を見てもらうことにしたんだ。


 するとやはりオークニキも同じことを考えたようだね。目に見えて表情が険しくなったよ。


 オークニキは鉈みたいな剣を持っているし、集落では鉄のクワやタルの金具なんかがあった。

 他の種族と交易があるのかもしれないけれど、オークさんたちにも鍛金の技術があるということだと思う。


 でも、その中に歯車やバネみたいなものを使った複雑なものはなかった。


 つまり、トラバサミを仕掛けたのはオークさんたちではない。

 それでいて、オークニキの表情を見れば友好的でない相手なのは明白だ。より踏み込んで言うなら、人間が仕掛けたものということになんだろう。

 まあ、他にどんな種族がいるか知らないけど消去法だね。


 異世界とはいえ、種族的には私は冒険者側ということになる。


 でもいきなり殺意マックスでトマホーク投げてきた見知らぬ同族と、死にかけていた私を救ってくれた異種族の命の恩人なら、私は後者に味方したい。


 初めて冒険者と遭遇したとき、オークさんが敗走したことを思い出す。

 オークニキはあのときのオークさんより装備もいいし、強そうだけれど冒険者と戦って勝てるのかはわからない。


 何より、冒険者がひとりでいるとは限らない。集団で囲まれたら、オークニキでも危ないんじゃないだろうか。


 オークニキは罠には触らないように言ってきた。

 いや、ここにはもう来るなって意味かな? とにかく罠を指さしてから手でバッテンを作って首を横に振ってたから、ここには近寄らないようにするよ。


 バッテンってこの世界でも通じるんだね。

 場違いだとは思うんだけどそこはなんか嬉しかったよ。


 ひとつ気がかりなのは、姫ニャンのことを伝えられなかったことかな。


 姫ニャンの手当てをしてあげてほしい反面、オークさんたちにとって猫耳族がどういう相手なのかわからない。

 友好的なのか敵対的なのか中立的なのか。


 私を助けてくれた理由もわかってないし、現状では引き合わせなくて正解なのかな。怪我が気になるところではあるんだけれど。


 でもまあ、罠には血の跡が付いてるから獲物がかかってたことはわかるだろうし、それを私が逃がしたってことは、オークニキも気付いてるとは思う。

 暮らしとか見てればオークさんたちにそれくらいの知能があるのはわかるし。


 あとはオークニキたちが判断することだし、私はそれに従うとしよう。


 異世界生活十六日目。何も事件が起きませんように。

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