十五日目


十五日目


 姫ニャンと再会す!


 今日もお昼まで洗濯を手伝って、そのあとは移動範囲を広げてみたんだ。オークニキは狩りに行くし、少しくらいなら集落から離れても大丈夫だろうと。


 あの最初の草原からどれくらい離れてるのかはわからないけれど、この辺りは草木もまばらで土も乾いている。荒野って感じだ。

 草原の方は冒険者もウロウロしてたし、そういうところを避けた結果なのかな。


 でもたまに背の高い木や茂みみたいなのがポツポツと生えていて、遠くから見ると緑の綿菓子が転がってるみたいだった。


 あと木には新芽が出てた。ということは秋じゃなくて春先なのかな?

 元の世界は十月だったから、季節が半周くらいズレてることになるね。


 まあ、こっちにちゃんとした四季があるかはわからないけれど、この格好で冬を過ごさなくていいのはありがたい。


 そんなふうに周囲を探索してたんだけど、茂みの陰で何かが暴れてたんだ。


 おっかなびっくり近寄ってみたら、なんとそこに姫ニャンがいた。


 前はほんの数秒しか見えなかったし私死にかけてたけど、たぶん同じ子だと思う。耳もしっぽも真っ白で綺麗だったし、顔も見間違えじゃないだろう。


 姫ニャンは罠にかかっていた。

 トラバサミっていうのかな、ギザギザの付いた鉄の枠に足を挟まれていたよ。冒険者が仕掛けたものかな。酷いことするよ。


 刃が食い込んだままで血がずっと出てるし、怖がって震える姿を見たら、助けないなんて選択肢は思いつかなかった。


 外すのはなかなか大変だったよ。


 周りには木々も生えてるおかげで太い枝なんかも落ちていた。枝を突っ込めば力尽くで開けると思ってたけど、全然無理だった。


 構造から見てみると、半円状の刃の外側には分厚い鉄板が伸びていた。どうやらこれがバネらしい。

 そりゃあ、ちょっとやそっとじゃ外れないよね。


 あと真ん中にペダルみたいな形のスイッチがあって、それを踏んだら刃が閉じる仕組みらしい。

 スイッチを踏んでるから、開こうとしてもすぐに元に戻ってしまうようだ。


 棒を二本突っ込んで左右に倒せば開くこと自体はできそうだけれど、固定ができないから少しの間しか開けない。

 姫ニャンは怪我をしてるし、最悪骨が折れてる可能性もあるからとっさには動けないと思う。


 それに姫ニャンの体が邪魔で棒も上手く固定するのは難しい。

 あと足が抜ける隙間を確保しようとしたら、そんなに太い棒は突っ込めない。けど棒が折れたらもう一度足を傷つけることになるから、失敗はできない。


 悩んだのは一時間くらいかな。私が選んだのは隙間に石を詰めて、少しずつ開いていく方法だった。


 二本の棒で隙間を広げて、広げた分だけ石を奥に突っ込む。

 動かすたびに姫ニャンすごく痛そうで可哀想な悲鳴を上げてた。ごめんね。十分な隙間を確保するまでに、棒は二回も折れてしまった。

 石も砕けそうで冷や冷やしたけど、なんとかやり通したよ。


 ちなみにやっぱり姫ニャンとも言葉は通じなかった。言葉っぽいのはしゃべってたんだけど、なんて言ってたのかな。


 トラバサミから脱出できたものの、姫ニャンは酷い怪我をしていた。

 手当てができるものがなかったから、シャツの袖を破って巻いてあげた。薬もないから大して意味ないかもしれないけど、患部が覆えるだけでもマシだと思いたい。


 怪我もしてるしオークさんの集落まで連れて行こうかと思ったんだけど、姫ニャンはまた逃げていっちゃった。


 まあ、オークニキがなんで私を助けてくれたかもよくわかってないし、姫ニャンが食べられる可能性が無きにしも非ずなので、これでよかったのかもしれない。


 姫ニャン、破傷風なんかにかからないといいけど、大丈夫かな。


 あ、そうそう! ダメ元でスマホを付けてみたら奇跡的に起動したよ。『東京防災』見ようとしたんだけどテンション上がりすぎて結局忘れた。


 代わりに姫ニャンとツーショットで写真撮れたよ。

 まあ、バッテリー切れたから見返したりもできないけど、最後にスマホを有効利用できた気がする。


 異世界生活十五日目。さようならスマホ。

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