十一日目


十一日目


 やあ、オークニキに生まれたままの姿を全部知られてしまった私だよ。


 ごめん。わざと語弊があるように書いたよ。

 だって見られたのは事実なんだもん。ちょっとくらい文句を言う権利があったっていいじゃないか。


 まあ、それはそれとしてオークニキは私から服を引っぺがしたわけだけれど、別に薄い本みたいなことをされることはなかった。


 代わりに熱いお湯の中に放り込まれたけれど。


 うん。ちょっと私には熱かったけど、鍋とかじゃなくてお風呂だったよ。


 思えば私はこの世界に来て十日間もお風呂に入ってなかったわけで、汗もかいたし汚い川に流されたりもした。


 それどころか漏らしたこともごにょごにょ。

 もちろん地面を這いずったりもしてきたわけで、非常に不衛生な状態にあったと言えるだろう。もしかしなくても体臭もひどいことになっていたんだと思う。

 オークニキたちの嗅覚でどう感じるものなのかは、わからないけれど。


 端的に言うと、もの凄く汚かったんだ。


 それこそオークニキが引くくらい。


 まあ、だからといってオークさんたち数人(数体?)がかりでお湯の中でごっしごし洗われるっていうのはちょっと生きた心地がしなかったけれども。


 というかお風呂と言ってくれれば自分で洗ったよ! まあ向こうもジェスチャーでお風呂の説明とか無理だと思ったんだろうけどさ。


 いやでも、大根みたいに洗われたのは死ぬかと思ったけれど、十日ぶりに浸かった湯船は気持ちよかったよ。健康にも良さそうだ。


 今にして思うと、人間にお風呂に入れられる猫とかって、ああいう心境だったのかな。そりゃお風呂とか嫌がるよね。

 だってマジ怖かったもん。


 次からは自分で入らせてもらおう。上手く伝わるといいんだけど。


 あ、そうそう。ここのお風呂、なんと温泉だったよ。


 最初に洗われたときはでっかい桶みたいなものに突っ込まれたんだけど、そのあと温泉に入らせてもらえた。

 結構広かったから他のオークさんとかも入ってたし、子供オークに水鉄砲やってあげたら声上げて喜んでた。


 ふふん。どうやらオークさんたちも水鉄砲のやり方は知らなかったらしい。大人のオークも興味深そうに集まってきたからちょっと自慢しちゃったね。


 初めこそ羞恥心で嫌がったものだけれど、よく考えたら向こうはオークで私は人間なわけで、こう山奥の天然温泉で熊といっしょになっちゃったみたいな感じというか、種族が違いすぎて気にしても仕方なかったというか。

 そもそも服といっしょにメガネも取られちゃったからほとんど何も見えなかったしね。


 ああ、そうだった。それでお風呂は非常に嬉しかったんだけれど……。


 上がったら、制服がなくなってた。


 オークニキは代わりの服――さらしと腰巻きみたいなものだけれど――を用意してくれていたけれど、そうかあ。なくなっちゃったかあ。

 そりゃもうゴミと見分けつかないくらい汚れてたし仕方ないんだけれども……。


 いやJCのころの制服だし愛着があったわけじゃないつもりだけれど、元の世界の服を来ているって存外に安心感みたいなものがあったんだね。


 ちなみに昨日はいきなり脱がされたもんで、日記と鉛筆はそのまま部屋に転がっていたよ。あとメガネも。

 鉛筆はともかく、日記はそう何度も濡れたら耐えられないだろうから、これは不幸中の幸いと考えるべきかな。


 そんなわけでお風呂は嬉しかったのだけれど、制服がなくなってたのはショックだったんだ。冒頭の愚痴はそれが理由かな。


 まあスマホも壊れたし形あるものは失われるものなんだろう。明日からは気持ちを切り替えていこう。


 今日は、ちょっとお布団の中に閉じこもってるけれど。


 異世界生活十一日目。綺麗さっぱりになった私。

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