八日目


八日目


 やあ、今度は 病死の危機に立たされている私だよ。


 昨日はなんとか逃げ延びたものの、何か月も部屋から出ないような生活をしてきたんだ。

 栄養失調もあって、そのまま力尽きて気を失ってしまったんだ。びしょ濡れのままね。


 翌朝、当然ながら私は体を壊していた。


 頭が痛い。酷い吐き気がする。体中痛くてまともにものが考えられない。

 たぶん熱もあるんだろう。計る方法はないけれど、目の前もぐわんぐわんしてて気持ちが悪い。

 有り体に言うと風邪の症状ではあるのだけれど、ここは異世界だ。日本というか地球の免疫って効果あるんだろうか?


 ああ、あと食料がない。


 慌てて逃げたものだから当然木の実なんてポケットには入れられなかったし、だいぶ流されたせいかこの辺りには木も生えていない。

 生えてたところで動けないんだから木の実も採れないだろうけれど。


 それからメガネが泥まみれのまま固まっちゃって、ほとんど何も見えない。

 水で洗い流せば多少は綺麗になると思うけど、今はそれさえも難しい。裸眼の方がまだマシだから、今はポケットに仕舞っておこう。


 そうだった。水だ。


 水は、なんとか飲めなくはないけれど、私この川上でトイレしてたんだよね。

 虎の子のティッシュはもうないから、川下の方で用を足してそのままお尻も洗ってたんだ。

 それがここに流れてきたんだと思うと、ちょっと飲む気が起きない。


 そんなこと気にしてる場合じゃないというのはわかっているのだけれど、現代人として抵抗を拭えなかった。


 ただひとつ発見だったのは、鉛筆で書いた文字って水に濡れても消えないんだね。これがボールペンだったりしたら滲んで読めなくなっていたよ。


 そんなわけで何もできることはないし、こうやって遺書……もとい日記を綴っているわけだよ。


 はあ、日が高いのに寒くて仕方がない。


 このまま眠ったら、もう目が覚めないんじゃないだろうか。

 立ち上がるどころか寝返りを打つのさえ一苦労。息も切れてるし、汗も止まらない。あと心臓が異様にバクバク鳴ったりしている。


 家だったら薬を飲んで少し寝れば治るだけの風邪が、今は明確に私の命を脅かしていた。

 この世界にも薬ってあるのかな。まあ、あっても今ここになければ意味がないんだけれど。


 ああ、どうしよう。


 酷い臭いがしてきた。

 息ができないくら鼻が詰まってるのにわかってしまうような酷い悪臭。それと地面に倒れてるおかげか、まるで大きな何かが歩いてるみたいに等間隔で地響きが伝わってくる。


 オークだ。


 しかも真っ直ぐこっちに向かってくるみたいだ。死体のふりしても、ちょっと見逃してもらえそうにはないかな。


 嫌だな。死にたくない。


 この際、薄い本みたいなことされてもいいから生きていたいけど、とてもじゃないけどそういう話が通じそうな外見じゃない。


 まあ、ニートが異世界で一週間以上生き延びたんだ。それだけでも褒めてくれていいんじゃないかな。


 異世界生活八日目。今日の私はオークのお昼ご飯かな。

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