七日目
七日目
やっぱ異世界でも人間ってクソだわ。
昨日は一昨日よりも探索の距離は伸ばせたけれど、またしても姫ニャンの住処は発見できなかったよ。
よく考えたら、少しでも警戒心があったらこんな化け物がウロウロしてるようなところで真っ直ぐ自分の住処に帰るような真似はしないんじゃないだろうか。
つまり私は見当違いの方向を探していたのかもしれない。
そんな当たり前のことに気付くまで二日もかかるとは、我ながら愚かだね。まあJKになれなかったニートのスペックというものを察してほしい。
今後の計画を立て直さなければいけない。
まあそもそも姫ニャンの住処に転がり込みたいという、計画とも呼べない願望ではあったけれども。
三日目にたどり着いた水場に戻れるようにしておいたのは正解だったね。
おかげで昨晩もなんとか無事に過ごせたんだけど、翌朝はすごいうなり声とやかましい音にたたき起こされた。
そこで私はついに初めて人間と出会えたよ。
寝起きにいきなりオークの臭いがしたからまた物陰でぷるぷるしてたんだけど、そいつと誰かが戦っていたんだ。
戦っていたのは、これまた見事に異世界ファンタジーの冒険者って感じの男だったよ。
金属部分より革の面積の方が大きいような軽鎧に、鼻の頭まで守りがあるアルファベットのMみたいな隙間が空いた兜。刃渡り一メートルくらいありそうな大きな剣を振り回してて、腰にも斧とか袋とかがじゃらじゃら付いてた。
あと腕にお皿みたいに小さい盾が申し訳程度についてたっけ。
どっちが始めたのかはわからないけど、戦いは終始冒険者の方が優勢でオークは逃げていった。
人間つよい。
私は拍手喝采して駆け寄った……いや走れないしのろのろ近づいていったんだけど、ここで洒落にならん問題が発生したんだ。
なんと言葉が通じない。
まったく聞いたことがない言語って、もはや知覚できないに等しいらしい。
発音うんぬん以前に、疑問形なのか命令形なのか、そもそもどこまでが一文だったのかすら判別できなかった。
あれ、日本の中学英語とかヒアリング能力が身につかないみたいな話聞いたことがあるけど、そんなことないよ。少なくともあっちは理解しようとすれば薄らぼんやりでも理解できる部分はあったもの。
でもこっちは無理だ。
しばらく聞いてれば何か理解できるのかもしれないけれど、今のところ聞き取るという段階で躓いてる。
それと、そんな何度も聞ける状況にはなかったらしい。
冒険者の男は言葉が通じないとわかると、腰の斧を投げつけてきた。
ふぁっきんヒューマン。私が美少女じゃないからか?
いや美少女なら今度は回されたりしそうだけれども、いきない殺しにかかるか普通?
雄叫びにびっくりして尻餅をついたせいか奇跡的に斧は外れたけど、後ろの木に深々と突き刺さってた。
あんなの当たったら頭蓋骨なんて簡単に割れるよ。そもそもオークが撃退されるような超人だ。私なんて藁みたいに殺されるだろう。
私は這々の体で逃げ出した。
冒険者は剣を抜いて追いかけてきたけど、川に飛び込んだらさすがに追いかけては来なかった。
斧以外に飛び道具がなかったのか、面倒になったのか。もしかしたら溺れて死んだと思われたのかもね。
だって制服って水吸うとめちゃくちゃ体に纏わり付いてきて犬かきもできないんだもの。
ただ、幸いというか川はそこまで深くなかった。
地面を蹴ればなんとか水面に顔を出せたし、流れもそんなに速くはなかったから、なんとか対岸にたどり着くことができた。
どれくらい流されたんだろう。おかげでなんとか命拾いしたけれど、もうあの場所には戻れない。
場所もわからないし、また冒険者が来たら、今度こそ殺される。もしかしたら生け捕りにしてもらえるかもしれないけれど、それはそれで酷い目に遭わされるに決まってる。
あと、スマホと時計が浸水して壊れた。
せっかくの文明の利器だったのに、結局何も活かせなかった。
特に時計が壊れたのが痛い。時間がまったくわからなくなった。
異世界生活七日目。初めての住処を失う。
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