五日目


五日目


 姫ニャンがいた! うわああ可愛い可愛い姫ニャン可愛いよFOOOO↑


 ……失礼。異世界生活五日目。ついに人型の種族と遭遇したよ。


 なんとか当面の水と食料(食えたもんじゃない木の実)を手に入れはしたものの、そもそもニートの体力でサバイバルできるはずもなく今日は木陰でぐったりしてたんだ。


 動く気力もなくてぼんやり木の上を見上げてみたら、猫耳の美少女が枝の上にいた。


 いつからいたんだろう。

 髪も耳も真っ白で(よく考えたら今の私とおそろいだね)お尻からは先っちょだけ黒いしっぽが生えてた。

 毛皮みたいなのを胸と腰に巻いただけでワイルドな格好だったけれど、顔とかはすごく小さくてほっそりしててアイドルみたいに整ってたよ。


 そこに瞳の色は緑なもんだから、本当に幻想世界に迷い込んだ気分だった。はいはい初めから幻想世界(地獄)ですね。知ってますよーだ。


 とにかく異世界すごいな。


 格好こそ違うけど、本当に姫ニャン(Vチューバー)が画面の向こうから出てきたみたいだった。

 初めてこの世界に来てよかったと思ったよ。


 ただまあ、向こうも私のこと死体か何かかと思ってたみたいで、目があった瞬間ビクッとして逃げていっちゃったけど。


 この世界、あんな綺麗な子が普通にウロウロしてるものなのかい?


 なんだか生きる気力みたいなものが湧いてきたよ。


 現状、私が生きていくためには、まず安全な寝床の確保。それと火を熾す手段が必要だ。


 他にもトイレとか未解決な問題がいっぱいあるけど、何より急を要するのはそのふたつじゃないかと思う。

 いや厳密にはもうひとつ洒落にならんのがあるんだけど、来るにしたってまだ半月くらいは先だと思うから、今は気にする必要はないだろう。


 話を元に戻そう。未だに夜は誰にも見つからないことを祈って岩とか木の陰で丸まってるしかないし、夜中に火があるだけで安心感が全然違う。

 実際のところ炎が獣を遠ざけるって話、逆効果だったりする場合もあるらしいけれど夜中は本当に寒いのだよ。


 それと水や食料に火を通せるという恩恵はあまりに大きい。殺菌できるし食べられるものも増えるし。

 まあこっちに来てからずっとお腹痛いし、もうすでに中ってるのかもしれないけど、そもそも食料が木の実しかないから今のところ嘔吐や下痢の症状はない。


 そこであの姫ニャン(この際そう呼ばせてもらう)なんだけど、荷物みたいなものは持ってなかったんだ。


 ということはこの近くに住めるところがあるってことじゃないかな?


 そこまでたどり着ければふたつの問題が一気に解決する。

 まあ、受け入れてもらえるとは限らないというか、敵と思われる可能性の方が高いような気はするけれど、ここでの生活の仕方を学ぶことはできるだろう。


 あと人里の近くで眠った方が安全だと思う。

 襲われてもそこに逃げ込むことができるし、なんやかんやおこぼれに預かれる可能性も期待できる。

 まあ、いっしょくたに追い払われる危険もあるけど、現在進行形で命の危機に瀕している私にそこまで気にする余裕はないんだよ。


 そうと決まれば姫ニャンの逃げた方向に行ってみよう。


 一応、ここには水もあるし三日間襲われずに済んだ場所だ。戻ってこれるように目印か何か付けておかないとだね。


 幸いにして先日土を掘ってボロボロになった十円玉が良い感じに尖っている。これで木に印をつけていくか。


 移動するとそれだけ化け物に襲われる危険も高くなる。

 これを読んでいる君。無事にこの日記の続きを書けることを祈ってくれ。


 異世界生活五日目。人里を求めて二度目の移動を開始。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る