四日目


四日目


 やあ、泥水を啜って生き延びた私だよ。


 ……ごめん。ちょっと盛った。一時間くらい這い続けて着いた先には川があったよ。

 なんか水澱んでたし変な微生物がいそうな雰囲気が濃厚だったけど、こっちはそれどころじゃないし蒸留の方法とか昔ネットで見たうろ覚えの知識しかないしで、頭から突っ込んでがぶがぶ行ったよ。


 まあ、もちろんお腹痛くなったし、今も川のほとりで身動きできないでいるけれど、出すものもないからそこまで悲惨なことにはなってないかな。


 ただ、そこで水面に映った自分の顔を見て悲鳴を上げることになった。


 私の髪は真っ白になっていた。

 恐怖とかストレスで白髪になることがあるとは聞いたことがあったけど、こんな根こそぎ真っ白になることってあるのかい?


 ニートとはいえ私は華の十五歳なんだ。これはさすがに少々傷ついたよ。


 それと目が落ちくぼんで本当にゾンビみたいな顔になっていた。一瞬自分は死んでるんじゃないかって疑ったよ。


 もうひとつ。舌の違和感の正体もわかったよ。

 舌が倍くらいの大きさに膨らんでて、端っこの方はギザギザになっちゃってるしで、クラゲとかウミウシみたいなのに寄生されたかと思った。

 あと色も白っぽくなってたか。これ、何かの病気なのかな。治るのかな。


 とにかく自分の顔全般に異変が起きてたのが本当にショックで、しばらく気を失ってた。いやたぶん脱水症状のせいだけど。


 それでも水を飲めただけで少しは回復したらしい。一応立ち上がれるようにはなったし、そのころには舌の異形化もだいぶ収まっていた。

 ……水飲んで快復が見られたってことは脱水症状が原因?

 でもそんなことってあるのかな。


 いずれにせよ、これが水分補給の恩恵なのか一時的なテンションのせいなのかはわからないけれど、私は動けるようになった。

 何かするなら今しかない。

 この体力がなくなったら、次は回復とかないような気がする。


 今一番必要なのは食料だ。お腹は痛いけど、今のうちに食料をどうにかしないと次は餓死が待っている。


 この辺りは川のせいか木も密集している。

 よく見ると小さな果実みたいなものもある。青いから渋そうだけど、食えるのならこの際なんでもいい。


 そうそう、小動物みたいなのもちらほら見えるよ。

 リスみたいな生き物なんだけど耳がリスよりずっと大きくて体も細い。まあ、すばしっこいし肉もついてなさそうだから食料には向いてないかな。


 オークみたいなのがウロウロしてるせいか、ウサギみたいに地面を移動してる肉付きのいい生き物は見当たらない。そういう地域なだけかもしれないけど。


 動けるようになったとはいえ、走ったりはできそうにないし、そもそも前に言った通り生き物の料理の仕方とかわからない。


 となると木の実を狙うしかないわけだけど、どうかな。幸い木の枝がいっぱい落ちてるからそれでなんとか落とせないだろうか。




 三十分くらい四苦八苦した結果、小さな青い実をいくつか落とせたよ。

 結論から言うと、食えたものじゃなかった。渋いっていうか苦いっていうか痛いっていうか、舌の感覚が麻痺する味だった。

 毒性がないか疑いたくなるレベルの不味さだったけど、とにかくお腹減ってたから全部食べたよ。明日死んでないといいけれど。


 火を通したら少しはマシだったりしたのかな。


 でもライターとか持ってないし、枝とかで火を熾す方法も知らない。

 そりゃ木の棒ぐりぐりして火を付けるのとかはアニメなんかで見たことがあるけれど、あれちゃんとした知識ないと実際やっても煙立つだけらしいし。そもそもこの辺の枝、全部若くて湿っぽいし無理かな。


 とりあえずこの辺りの木の実を全部落とせば何日か分にはなるかな?

  食べ尽くすころには味覚が失われてそうな気もするけれど、今は死ななければなんでもいいや。


 異世界生活四日目。ようやく生き延びる光明みたいなものが見えてきたよ。

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