三日目
三日目
お腹が減って死にそう。
私は今、比喩抜きにその危機に直面している。
昨日は結局、穴を掘ってなんとかしたよ。
雑草を引っこ抜けば案外地面ごと抜けたんだ。あとは十円玉でがんばって掘り起こした。
なんとか埋め直せるくらいの深さまで掘ったときには銅の十円玉が削れて形変わってたからゾッとした。素でだったら爪剥げてたんじゃないかな。
そんなわけでトイレという窮地は切り抜けたものの、虎の子のティッシュは使い切ってしまった。
次はどうしたらいいのか見当もつかない。
でもまあ、しばらくはその心配はしなくていいだろう。
最初に述べた通り、私は今餓死の危機に瀕している。
それと喉が渇いてどうにかなりそうだ。
この世界に来てから、まだ何も食べてないし飲み物も飲んでない。
今朝立ち上がろうとしたら酷い目眩がして立っていられなかった。おまけに足も攣ってなかなか直らないし、本当に気が遠くなりかけた。
あと、舌がなんかおかしい。鏡がないから確認できないけど、感覚がないというか異物感がする。硬いパンでも口に突っ込まれてるみたい。声を出そうとしたら舌を噛みかけた。
何か変な病気に感染したんじゃないだろうか。
人間は食事を抜いても一週間は生きていられるけど、水無しは三日くらいで死ぬって聞いたことがある。
今日で三日目。
空腹も辛いけど、すでに満足に立ち歩くこともできなくなっている。
ひとつだけ幸運だったのは、この世界に来てほとんど一歩も動いてないおかげか、まだ動く体力が残っているってことだ。
実は風に乗ってときどき水の音が聞こえてくる。そこまで這っていければなんとかなるかもしれない。
化け物は今日もウロウロしてるけど、立ち上がることもできない私からはもう草に隠れて姿も見えない。
ラッキーだったね。
あと怖いのは今も怖いけど、明確に死に直面していて希望もあると気にしてる余裕なんてなくなるもんだね。
というわけでこれから水の音の方に向かって進んでみるよ。
でも化け物もウロウロしてるし、水があっても飲めないかもしれない。
よしんば水を手に入れられたとしても、食料を探す体力はない。
そもそも木の実みたいなものは見当たらないし、生き物を狩ったり料理したりするような知識なんて持ってない。道具もないし。
私が明日まで生き延びるのは、かなり難しいと思う。
まあニートにサバイバルなんて無理な話なんだよ。
だからこれを書き残すことにした。ああ、うん。この日記は三日目の今日から書き始めたものなんだ。
生きていたら続きを書くよ。
あと、もしこれを拾った人がいたら何かの役に立つことを願ってる。
あまり有用な情報はなかったと思うけど、できれば私の骸を埋めてくれると助かる。
それともし遺品が残っていたら好きに持っていってくれてかまわない。
硬貨とメガネくらいは何かの役に立つんじゃないかと思うよ。
異世界生活三日目。ようやく私の移動距離は一メートルを超える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます