パーティーするなら異世界で!②
「「リンネ様、お誕生日おめでとうございますっ!」」
リンネが王族への挨拶を終え、リンネの言った通り、現在リンネの前には長い行列が作られていた。
俺が側に寄った時、なぜかリンネが少し困ったような顔をしていたが……王様に何か言われたのだろうか?
そんな一抹の不安が頭を埋めるが、とりあえず俺は俺の役割をこなすとしよう。
「ありがとう、君達。とりあえず、この後一緒に食事でもどうかな?」
「え、えーっと……」
「あなたは……?」
「俺? 俺はナギト・ミズハラって言います。とりあえず、自己紹介もあるだろうし、よかったらこれから────」
「開始早々、ナンパしてんじゃないわよ」
「……リンネ嬢、さり気なく俺の脇腹を抓るのやめてくれませんか? というか、身体強化の魔法、使ってませんよね?」
めちゃくちゃ痛いんだけど? ただでさえ皮下脂肪がないのに、肉が持ってかれそうなぐらい痛いんだけど? 叫ばない俺を褒めてほしいぐらいなんだけど?
「うちのものが失礼したわね。誕生日祝ってくれてありがとう、サーシャ、カンナ。ささやかだけど、今日は楽しんでちょうだい」
「「は、はいっ!!」」
戸惑った少女達が足早に離れていく。
くそぅ! 俺がイケメンだったら、離れるだけじゃなくて寄ってくるというのに!
「あなたは……これで何回目よ?」
「下僕は節操がなさすぎます。女の子の気持ちを少しは考えやがれ、ですっ!」
「わ、私はこういうプレイもアリかなぁ〜……なんて」
横にいる三名の美少女からジト目を向けられる。訂正、一人は頬を蒸気させ興奮している。その姿が、今日の服装と相まって超絶色っぽい。
「いや、こんなラブコメイベントで女の子と仲良くしたいって思うのは普通だろ? そして、彼女がほしい」
「その調子じゃ、一生恋人なんか作れないわよ……」
「明日、お仕置きですよ……ナギト?」
「今日この日のため────俺は甘んじてお仕置を受けよう」
俺の行動を許してくれるのなら。
「だけど、お前の要望はちゃんと叶えてるだろ? 寄ってくる男共も、縁談婚約云々の話は持ちかけてないわけだし」
もちろん、今来た女の子以外にも長蛇の列には男も混ざっていた。
だけど、皆婚約話は持ちかけてこなかった。顔を合わせた時のテンションこそ高かったものの、横に俺がいると分かった瞬間、皆一様に肩を落としてたからな。
「まぁ、そうね……」
だけど、リンネは歯切れの悪い返事をする。
その表情が、あまりにも違和感を残してしまった。
「それにしても、私だけじゃなくてソフィア達にもよく声がかかるわね」
だけど、リンネは触れられたくないのか、すぐさま違和感を消してすぐさま話題を振る。
「そ、そうですね……私、あまり貴族の人達と話したことがないので緊張しました」
「お姉ちゃんも〜」
「主に話しかけられたのは男だけどな」
ガックリと肩を落とした面々の中には、ターゲットを切り替えたようにソフィアとミラシスに話しかける男がいた。
二人の顔面偏差値がやばたにえんなのは、今に始まったことじゃないし気持ちは分かる。特殊性癖云々は置いておいて。
「リンネ様、この度はお誕生日おめでとうございます」
俺が二人と話していると、新たに人がリンネを求めてやって来る。
「二ケル様、わざわざありがとうございます。とても嬉しく思います。しかし、本当にお久しぶりですですね」
「えぇ、毎年リンネ様の誕生日パーティーには足を運ばせてもらってはいるものの、どうにも領地からは気軽に足を運べず……本来であれば、もう少しリンネ様のお顔を拝観させてもらいたいのですが」
「ふふっ、二ケル様も相変わらずですね」
横では、リンネが次に来た相手と話している。
相手は壮年の男性。下心一切なく、リンネも口調こそ違えどとても親しそうだ。
きっと、昔からの付き合いなのだろう。
(っていうか、よくもまぁこんなに顔と名前を覚えてるもんだ……)
先程から、会いに来た相手全ての名前を言っている。
数えるのも億劫になってきたというのに、よく全員の名前を逡巡せずに言えるものだ。これも貴族としては当たり前なのだろうか?
……流石はファンタジー。リンネの姿は、取り引き先と相手している会社員のようだ。
「そういえば、ソフィアもミラシスも疲れたんじゃないか? 色んな人に話しかけられてるし、ここにいなくても他に行ってもいいんだぞ?」
俺が巻き込んだだけだしな。ここにいれば自然に人が寄ってきて、話しかけられるようになってしまうだろう。
あまり嬉しそうに見えなかったし、俺もここにいることが慣れ始めたから無理に付き合ってもらわなくてもいいと思った。
「う〜ん……リンネちゃんには「おめでとう」って言えたし、少しどっかで休んでこようかな〜」
「私も、こんなに話しかけられるとは思いませんでした……せっかくなので、お料理とって食べてきます」
「うん、なんかありがとう」
二人はそう言って離れていく。その姿は若干疲れていて、申し訳なさからついお礼を口にしてしまった。
気を取り直して……とりあえず、俺は横で控えながら女の子と話す機会を窺おうじゃないか。
そんな時────
「やぁ、リンネ嬢」
そんな透き通った声が横から聞こえてきた。
ソフィア達と話していたからか、いつの間にか周囲がざわめきだっていることに今更ながら気がつく。
「……エリオット様」
リンネが口を開き、俺も反射的に声のする方に向いてしまった。
そこにいたのは、眩しすぎるほどの装飾品を身にまとい、綺麗に切り揃えた金髪を持つ爽やか系イケメンの姿があった。
その姿は俺ですらどこかで見たことのあるような気がして────
(……こいつ、王族様じゃね?)
一角だけ待遇の違う席に座っていた青年、その人であった。
その認識が正しいと言わんばかりに、周囲のざわめきの中「エリオット様よ!」「王子様が直々に来られたわ!」「相変わらずお美しい……」などなど、嫌というほど耳に入ってくる。
イケメンに謎の嫌悪が襲ってくるのは、そんなざわめきを起こせない劣等感から生まれてくるのだろうか?
「……いかがいたしましたか、エリオット様? 先程、ご挨拶をさせていただいたばかりだと思いますが」
リンネの言葉が重く聞こえる。不満そうな、嫌と物語っているような……そんな感じ。少なくとも、言葉が突き放しているように聞こえた。
「いや、改めて祝福したくてね。今日が初めて顔を合わせたわけだし、ちゃんと言っておいた方がいいと思ったんだ」
「それは……ありがとうございます。エリオット第三王子様にそう言っていただけて、私としても嬉しく思います」
「ふふっ、少し堅いかな? 僕に対しては、砕けた口調でいいんだよ、リンネ嬢?」
「……いえ、あなた様はこの国の王子────私などがそのような言葉、恐れ多いです」
仲良くなるために踏み込もうとする王子に対し、距離を取ろうとするリンネ。
いつもなら誰でもウェルカムなリンネからしてみれば、かなり珍しい姿だ。
(そういえば、第三王子って……)
いつぞや、リンネと第三王子の話をしていたような気がする。
……なんだっけ? 思い出さなくてはいけないはずなのに、記憶の中から掘り起こせない。
「そうかな……? まぁ、いいよ。徐々に仲良くしていきたいね、だって……君は美しい。だからこそ、僕は一目惚れしてしまったのだから」
……大胆なことを言うものだ。こんな周囲の目がある中で、告白紛いのことをするなんて。
「どうかな? 僕と、婚約してくれないか?」
「「「きゃー!!!」」」
「「「おぉ……!!!」」」
そして、本当に告白してしまった。
立場のおかげと顔面偏差値が異様に高いからか、周囲からは黄色い歓声が上がってしまう。
だけど、俺は開いた口が塞がらない。他の男は俺という存在が隣にいるからこそ口にしなかったのに、それでもお構いなしなのだから。
そして────
「……お気持ちは嬉しいですが、私の一存では判断しかねます」
リンネは、笑みを浮かべて断る。その笑みは、どこか貼り付けたものにしか見えなくて……。
「でも、こういうのは当人同士の気持ちが大事じゃないかな? 僕達なら、立場的にも問題ない」
「ですが、私もエリオット第三王子様もこの国では影響を与える立場にいます。周りにも相談した上で決めるのが筋かと」
「つまり、リンネ嬢は僕と婚約したくないわけだ」
「…………」
ストレートな言葉に、リンネの口が開かない。
……当然だ。王子相手に面と向かって「嫌だ」なんて言えるわけがない。
それに────
『私、自分の選んだ人とじゃないと婚約したくないの』
そう言っていた。ならば、ここで頷いてしまうと自分の言葉に嘘をつくことになる。
リンネはよくも悪くも真っ直ぐな女の子だ。出会ってしばらく経っている人間ならまだしも、聞けば今日会ったばかりだというのに、人となりが分かるわけじゃないし、自分のことも分かってもらえてないはず。
(そんな相手に、頷きたくないよな……)
だったら、せめて俺が助け舟を出してやるだけだ。俺がいる意味は、リンネの婚約話の牽制なのだから。
だから俺は、二人の空間を作っている場所で佇むリンネの肩を叩いた。
「リンネ、リンネ」
「……ごめんなさい、今話し中────」
「あそこでソフィアとミラシスが絡まれすぎてヤバそう。今すぐ救援しなきゃまずいっぽい」
王子が話している最中に話しかけたら不敬って思われるかもしれない。
だけど、この場ではこれ以外の選択が思いつかなかったし、事実会場の隅っこではリンネとミラシスが色んな人に話しかけられて困っているからな。
「君、今僕はリンネ嬢と大切な話を────」
「すみません、招待した者が困っているのに助けてあげないと『リンネの評判が下がる』と思いまして。失礼なことをしていると思いますが、ここはリンネのためだと思って譲っていただけないでしょうか?」
「…………」
王子が言い淀む。結構無理なことを言ったつもりだったのだが、存外押し通せそうな空気だ。やっぱり、リンネのためって部分が引っかかったのだろうか?
チラリと横を見る。すると、リンネと視線が合ったが、すぐさま逸らされてしまった。
「彼の言い分はもっともです。彼女達は私が招待した友人……困っているとなれば、助けるのが道理────エリオット第三王子様には申し訳ございませんが、この話は後ほどお願いいたします」
「……分かった」
リンネが深く頭を下げる。それにつられて、俺も思わず頭を下げてしまった。
そして、リンネは足早にその場から立ち去ってしまうので、俺も後に続く。
その時────
「僕は本気だよ……リンネ嬢」
そんな呟きが聞こえたような気がした。重く、深く、その言葉には執念が乗っているよう────あぁ、思い出した。こいつ、リンネが前に言ってた『脅迫して無理矢理迫る王子』って噂のやつじゃないか。
……危ない、早々に引き上げさせてよかった。
思わず、内心安堵の息が漏れてしまう。
「……悪かったわね」
ボソリと、足早に立ち去るリンネが呟いた。
「……別に、俺は俺に与えられた役割をこなしただけだ」
「……私が言ったのは『側にいること』よ。あの人が「不敬だ!」って言えば、ナギト……不敬罪だってあったの。本当に無茶して……馬鹿っ」
……やっぱり不敬罪とかあるのね、この世界。平民に優しい世界だと思っていたけど……法には負けてしまうのか。
「でも、そうね────」
リンネは少しだけ間を空けると、横を歩く俺に向かって優しく微笑んだ。
「ありがと、本当に助かったわ」
その言葉は、勇気を出してよかったと思わせるには十分だった。
不安と焦りと後悔が……一気に、消えていくのを感じてしまう。
「……気にするな。ヘルピングしてあげないといけないのは本当だから」
「えぇ……そうね。早く行かないと、あの子達が可哀想だわ」
そう言って、俺達は壁の隅っこで集団を作っている二人の元へと向かった。
どのラブコメでも、美少女は男からモテるという設定で、困っているとよく言っていたが────事実、美少女はどこに行っても本気で困っているんだなと、そう思った。
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