誕生日祝うなら異世界で!

 拝啓、お父さんお母さん。お元気ですか?

 お父さんとお母さんは、仕事に生きがいを持っていますか? 日銭を稼ぎ、俺というパーフェクトでイケメンでジェントルマンな息子を育て上げるためだけに、つまらない仕事をやっていましたか?


 ん? 「そんな息子を持った覚えはない」って? 悲しいかな、それを実の母親であるあなたがそれを言いますか。


 話が逸れしまいましたが、俺はこの世界に来て師匠お仕事の手伝いという仕事に生きがいを感じております。

 だから、安心してください。俺は元気です。


♦♦♦


「来週、パーティーがあるのだけれど……皆、来ない?」


 師匠の仕事のお手伝いが終わってから翌日。実技授業の合間の休憩中に、リンネがそう口にした。


「パーティー……ですか?」


 両手を土に埋めさせられ、四つん這いになった俺の上に座るソフィアが疑問に思う。

 とりあえず、この状況を先に疑問に思ってほしかった。


「そういえば、確かリンネちゃんの誕生日が来週だったよね〜」


 ミラシスが指を加え、手を埋められ四つん這いになった俺を羨ましそうに見ながらそう口にした。

 言動が一致しない少女には困ったものだ。普通に助けてほしい。


「えぇ、そうなのよ……来週のパーティーは私の誕生日を祝うの。それで、あなた達を誘ってるの」


 誕生日パーティー。前世ではそういった催しこそちらほらと聞いたことはあったものの、生憎男しか友人がいなかった俺はあまり参加した記憶がない。


 男なんて、滅多に誕生日パーティーなんて開かないからなぁ。せめて、コンビニで買ったアイスを奢ってやって、それでおめでとうを言うぐらいだ。


「あ、ナギトは拒否権ないから来なさいよ」


「おいコラ、なんでだよ?」


「お父様から「ナギトくんは絶対に誘うように」って言われてるのよ。よっぽど、気に入られたのね」


「特段気に入られるようなことをしたような記憶はないんだがなぁ……」


 話を聞きながら、俺は必死に地面に埋まった手を引っこ抜こうとする。

 思った以上に綺麗に埋まっているようだ。魔法というのは、存外恐ろしいものだよ、ぴえーん。


「まぁ、別に嫌ってわけじゃないから行くよ。師匠にも前もって言っておけば、大丈夫だろうし」


「了解。ソフィアとミラシスはどうする?」


「んー……私も、シスターに言えば参加させてもらうことも大丈夫なんですけど……」


「私も、お母さん言えば問題ないんだけどねぇ〜」


 二人が難色示したような顔をする。

 ……誕生日を祝うだけで、どうしてそんなに難しい顔をするのだろうか? まさか、友人の誕生日を祝いたくないとか? ハッ! なんて薄情な奴らなんだ!


「……何やら、下僕が失礼なことを考えているように感じました」


「やめて、ご主人様。俺の足をグリグリと踏まないで」


 どうしてこの子は俺の考えていることが分かったのだろうか? そんなに顔に出やすいタイプだったかな?


「ナギトくんは何か勘違いしてそうだから言うけど────リンネちゃんの誕生日パーティーって、結構本格的にやるんだよ〜」


「本格的?」


「そうそう〜! ちゃんとドレス着たり〜、ダンス踊ったり〜、挨拶したり〜!」


「だから、私達は渋ってるんですよナギト。ドレスなんて高い物、私達は持っていませんから」


 なるほど……っていうことは、リンネの誕生日パーティーは本格的な中世ヨーロッパ風のパーティーなのかもしれない。


 といっても、俺も異世界漫画でしか知らないけど、貴族らしい豪華な場所できちっとしたドレスコードに身を包み、華やかな料理がテーブルに並び、ピアノの音色に合わせてダンスを踊る────正しく、想像通りの貴族のパーティー。


 ……そんな感じだろうか? 俺の知っている、小さなケーキとクラッカーがある誕生日会とはちがうっぽい。

「私は一応公爵家の人間なのよ。それなりにちゃんとしてないといけないわ。各貴族とか王族も来るしね」


「ふむふむ……俺、行かなくてもいい?」


「あなたは強制参加って言ったでしょう?」


 そんな理不尽な……。


「安心していいわ。ドレスはこちらで用意するし、ソフィアやミラシスに貴族の社交界のルールを押し付けるつもりもない────気楽に参加する感覚で来てもらえればいいわ。私も、お父様にはそう伝えてあるし」


 きっと、レイスさんにはちゃんと友達が来ることは伝えてあるのだろう。

 この世界は平民貴族にそこまで差別や格式があるわけでもないし、貴族社会のルールを押し付けるようなことはしなくても問題ない……んじゃないかなぁ? 分からんけど。リンネがそう言ってるし、そうなんだと思う。

「そ、それなら……大丈夫ですかね?」


「う〜ん……お姉ちゃんとしては、リンネちゃんの誕生日をお祝いしたいし、そこまでしてくれるなら行きたいかな〜♪」


「俺も気にしなくていい?」


「あなたは別よ。お願いしたいこともあるし」


 そんな理不尽な。


「それじゃ、決まりね。正式な招待状は今日すぐにでも送らせてもらうわ」


 そう言って、リンネは立ち上がり訓練場の中心────教師が立っている場所へと向かっていった。どうやら、休憩が終わって集合する時間になったみたいだ。


「「りょうかーい」」


 それに合わせて、二人も立ち上がる。


「ま、待って。パーティー云々は分かったから、この手をどうにかしてくれない、ねぇ!? ソフィア様ー!?」


 放置プレイはいらないから! そういうのはミラシスだけでいいから!


 だから、この手を土から出してくれませんか! お願いします、このままじゃ授業中ずっと四つん這い情けない姿を晒すことになっちゃうから!


 追伸

 リンネがちゃんと魔法で地面から手を出してくれました。

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