ステータスオープン
厳しいまなざしを侑希に向ける、燃えるような緋色の髪をした女性。
予想外のその反応にそれがどうしてなのか分からず唖然とする。怒らせるような事をしたかどうか、今までしてきたことを振り返ってみるがアテがない。
「え、何てことって……ごめんなさい」
なので社会の常識、とりあえず謝る、だ。少なくとも悪い事をしたのだろうし謝るが得策だろう。
「え? どうして君が謝るの?」
「……は?」
しかし返って来た反応はまたもや予想外。その女性は不思議そうな顔で侑希へ再び問いかける。
意味が分からなさくて、またどことなくウザかったので思わずキレ気味に返す侑希。
そこで侑希の耳に入ったのはクックッという笑い声。聞こえる方角は侑希のちょうど真後ろ。
後ろを振り返ってみると、いた。黒幕が。
「あっはっはっはっは! なんて滑稽なんだ!」
緋髪の女性を指差しながら、紺髪の男性がとても良い笑顔で笑い泣きしていたのだ。
侑希が唖然としている中、緋髪の女性がジト目で男性に問い詰める。
「あざ笑うとか最低ね。それにもう一回言うけど何てことしてくれてるの?」
「何てことってトドメをもらっただけじゃないか」
「それが何てことよ。発見したのも、そして敵を打ち上げたのも私の魔法なのに」
紺髪でヒゲを生やして高らかに笑うナイスガイ。右手には女性と同じような鉄剣を持っていてそれも血濡れている。
つまり女性はこの男性に向かって話しかけたのだろうが、それを侑希が自分へ向かって話されたのと勘違いしたのだ。
だから侑希は勘違いを笑われたということで……
「最低ですね、初対面の人に」
「最低ね、本当に」
「……君達も初対面だよね。なぜそんなに気が合ってるの?」
初対面の人にひどい事を言った面ではブーメランなのだがそれに気づく様子はない。
急な話についてこれてなかった侑希も頭の整理が追い付いて来た。
「えーと、つまりはお二人方が俺を助けてくれたんですね。ありがとうございます」
「礼には及ばない。襲われてる人を助けるのは僕達の使命だ」
改めて感謝をのべる侑希。それを受け取ると共に返事する二人。
「でも私たちにも聞きたいことがあるわ。どうしてこんなところにいたの?」
しかし女性の質問は定番かつ困るもの。
なにせ理由が異世界転移だ。ありえないし通じるはずも無い。変なことを言って狂人扱いされたらたまったものではない。
だからこそ思案を練るタメに時間稼ぎをする。
「そ、それもそうですが貴方たちは何ていう名前なのですか? 知らないことには呼ぶのに困りますので……」
「そういえばまだ自己紹介してなかったな」
納得を見せる二人。そういうことで取りあえず女性の方から自己紹介することになった。
「では私から、サミラていうの。すぐそこの街”ミシェルタ”にある冒険者ギルドの支部の職員なの。巷では『風読の魔導師』と呼ばれてるわ」
いきなりありえない言葉のオンパレード。とりあえず女性の名前は”サミラ”ということだけしっかりと頭に刻み込む。
「続いて僕も。冒険者ギルドのミシェルタ副支部長グリフィスだ。覚えておいて損はないぞ?」
紺髪のグリフィス、そして緋髪のサミラ。恩人の名前を忘れないよう、しっかり頭に刻み込む。
さて侑希もとりあえず話を繋げるために、何となく理解できる範囲を狙って問い返す。
「副支部長って、高い役職っぽいですね。ここにいて大丈夫なんですか?」
「なに、支部のある街ミシェルタはすぐ近くだ。それにここにいるのだって仕事の一環だからな」
「さて、次は君の自己紹介の番よ?」
サミラにそう言われたので侑希は素直に従うことにする。
「俺は長星 侑希といいます。絵を描くことが趣味の、ただの一般人です」
「侑希君…… 聞きなれない不思議な響きの名前ね」
「ただの一般人とは思えないけどなぁ」
やはりというべきか名前から疑われた。侑希も覚悟はしていたがいざ問われると内心の動揺は隠せない。
その状況でもう一度サミラは問う。
「さて、どうしてここにいるの?」
「ど、どうしてなのでしょうかね……」
だからか侑希は確かな答えを返せなかった。
やはり言い訳を作るのには時間と情報が足りなさすぎる。下手に嘘をついて食い違いができたらゲームオーバーなのであまりにも無理がすぎた。
「もしかして覚えてないの?」
「いや……は、はい。その通りです。そうです、気づいたらあの草原で気絶していたので」
「ふむ。記憶喪失のたぐいか? それとも一時の忘れか……」
しかしサミラの返しは不本意ながらも渡りに船。否定しかけた侑希も切り替えしてそういうことで話を通す。
この世界のヒトでは無い以上は、この世界のことは覚えてないと言えないことも無い。そんな無理矢理な言い訳で自分を丸め込む。
記憶喪失は実に打ってつけ。しばらくはそれを騙ろう。
「まあとにかく所持品は何も無いんですよ。引きはがされたのかも知れません」
ついでに一文無しをアピール。頼れるところまで頼ってしまおう、と釘をさす。
命を助けてもらった上に物品まで頼るのは失礼と分かっていても、路頭に迷ってしまうだけは避けないといけない。苦渋の決断だ。
「フム、それだけ侑希君に価値があったものなのか? よく分からんが」
「でも記憶を失わせるなんて目立った外傷なしには無理だと思うわ。それに侑希君の服もおかしいわ。もしかしたら何かしら重要な秘密を握っている可能性が」
「なきにしもあらず、だな」
するとそれに対して少し斜め上の推測が展開される。
侑希の着ている服は学校の制服。ちょっと離れた地方の礼装服だと言えば通じないことも無さそうだが、今は黙っておくにこしたことはない。
その他にも聞きなれない用語がまじった言葉が聞こえる。聞き取れるようにがんばってみるがなかなか理解できない。
その様子を見かねた二人は会話するのを止め、侑希に呼びかける。
「まあ、立ち話はなんだから、冒険者ギルドに戻りましょうか。そこで貴方にしたいことがあるからね」
「着いてくるんだ、侑希君」
言い終わるなりザッザッと草を踏み倒しながら歩き始める二人。その方角の先にはさっき侑希が目指していた大きな街が見えた。
(ほわぁぁ、本格的だぁ……)
内心でそう感動を噛みしめながら二人の後をついていった。
街の入り口には大きな壁がある。かの万里の長城のようだ。壁の上を傭兵が常に巡回していてもしゲートを通らないで侵入しようものがいるなら容赦をしない。
ゲートを通る際の手続きとか大丈夫かな、と心配したがグリフィスが職員に何かを話しかけたと思うと何事もないように通ることができた。特例措置とかだろう。実は本当は苦労する障壁を楽々乗り越えたのでは?と侑希は思う。
ゲートを潜り抜けた先には街が広がっている。
ミシェルタというその街は、中々に素晴らしいものだった。
石を基調とした建物が多いが、レンガの赤や草木の緑が優しくアクセントを加えていてカラフルだ。言うならばモノクロとカラーのコンビネーションだろう。
現地人の髪色はとてもレパートリーが豊富でコレクションが作れるのではというほどにそろっていた。そして私服を着ている人だけでなく、金属製の鎧やロープを着ている人もいる。
露店があちこちに出ていて街は活気に満ちている。おいしそうな果物や野菜が売られていて、お腹がすいた今はどうも目線を奪われてしまう。
「ふふ、気に入ってくれたかい? 侑希君」
「はい。すごいの一言に尽きますよ」
グリフィスは自慢げにそう尋ねる。やっぱり自分の住んでいる街を褒められると嬉しいのか「そうかそうか」と言わんばかりの表情をしている。
「それでグリフィスさん、ギルド支部はどこですか?」
「何、じきに分かるだろう」
ギルドと思えるような立派な建物はいくつもある。そのどれもがニホンでいうなら国会議事堂ほどの大きさでミシェルタの街の規模を示している。
その建物を横目に見ながら目的地へ歩いていく。侑希の着ている服が制服だからか、通りすがりの人の注目を集める。そばにいるのが重職の人というのもあるだろう。
国道四車線ほどの横幅がある石畳の大通り。街の入り口からずっとこの道を歩いてどのくらい経ったか。まだ足は大丈夫だが少しは休憩が欲しいと思っていた時だった。
「ほら侑希君、見える?」
ふとサミラが語りかけて来た。彼女が指さす先の建物、それは
「え? え、ええ!?」
一言で表すならそれは城だった。
石レンガで作られた大きなアーチの入り口を持った建物、その周囲にはいくつかの大きな円塔が空高くそびえ立っている。またところどころに植物があふれんばかりに生えていて建物のモノクロ化を防いでる。
「ふふ、気に入ってくれたかい? 侑希君、なんつって!」
「おいサミラ、人の発言をパクるのは止めてもらうじゃないか」
ドヤ顔のサミラとすかさずツッコミを入れるグリフィス。道中でも薄々気づいたことだがこの二人は仲が良いのだろう。
そんな会話もたいして耳に入らずただその壮大さに意識を奪われていた侑希。
「驚いたでしょ? これが私達の冒険者ギルドのミシェルタ支部よ!」
サミラはギルドの建物を背景に自慢気な顔を見せた。
◇◆◇◆◇◆
それから少しほど時間が経ち、今はギルド支部の建物内。侑希はサミラ達によって建物内の一室に案内されている途中だった。
(にしても本当に異世界に来てしまったんだな。予告くらいは欲しいものだ)
建物内を歩いている間に、与えられた新しい現実に思いをはせる。
ライトなノベルでおなじみの異世界転移。このご時世ではもはや五人に一人は知ってるだろうことがらだ。それが実際に自分に降り注ぎ、戸惑いと喜びを一度に感じる。
とはいえあっさりとこの現実を受け入れてしまったのだが。
「侑希君、この部屋よ。入って」
サミラの指示にしたがって入室。その部屋の中央には拳大の水晶玉が置かれ、それを囲むように巨大な魔方陣が床に敷かれていた。
その神聖な雰囲気に思わず息を呑んでいると、横からグリフィスが解説を加えた。
「さて今からここで、君には【ステータスオープン】を受けてもらう。やり方は簡単、指示の後に水晶玉に触れれば良い」
「【ステータスオープン】?」
「おっと悪いね。【ステータスオープン】とは個人の能力の値を測定する魔法だ」
人にはそれぞれ体力や筋力などの物理的な力、そして魔力などの実態をともなわない力がある。そしてそれらの大きさを数値で示したのが”ステータス”と呼ばれる能力値だ。
それを測るということは、つまり個人の力の大きさを測るということだ。
実はこの魔法を一人で使える人は歴史上に一人しか存在しない。その人が一般人でも利用できるように、と作ったのが魔法の発動を補助するこの水晶だ。
そしてそれのおかげで、設備が整えられたギルドなら【ステータスオープン】を使えるのだ。
その一連の説明をザッと受けた侑希。
「つまり、個人情報を測るんですね」
「半ば強引に失礼だったな。とはいえ、それで何か手掛かりをつかめるかも知れないから許してくれないか」
勝手にプライベートを見ることに謝るグリフィスに、侑希は静かに首を横に振って返す。素性が知れない身なんだし仕方のないことだ、と割り切っている。
「侑希君、準備ができたよ」
「あ、今行きます!」
サミラはその説明の間に魔方陣の近くに置かれていたテーブルまで移動し、簡単な準備をすませていた。
呼びかけに応じ水晶玉の前まで侑希が移動するとサミラは「触って」と呼びかける。そして彼の手が水晶玉に触れたのを確認すると、短く息を吐きだして魔法を唱えた。
「━━開示せよ、【ステータスオープン】」
その声に応えるかのように、水晶玉が青白く光りはじめた。
内に秘められた光を一杯に放つ様はまるで宝玉のよう。
魔方陣も応じて光りだし、陣に刻まれた解析不能の術式がふわりと空中の浮き上がり、回転を始める。
(これが……魔法……)
神秘という言葉を表したかのような光景にただ圧倒され、心の奥から震えがわき立つのが分かる。
「データよ、収束せよ」
再び響くサミラの声、術者の意思とリンクし、浮かびあがった術式がまるでブラックホールに吸い込まれる星のように水晶に集まっていく。
そしてまるで天球儀のような水晶玉が完成した。
「読み取り完了よ、あとはこのデータをボードに転写するの。時間がかかるからロビーで待っていて」
サミラはそう机の下からボードを取り出すと水晶玉に乗せて徐々に情報を転写していく。しばらく時間がかかるのだろう。
グリフィスの手引きの下に再びロビーに戻ると、ロビーにいる人達は侑希を見て怪しがる。それはそうだ。見たこともない服を着た少年が突然ギルドの職員専用エリアからグリフィスと共に出てきたのだから。
ジロジロとした視線を浴びてあまり気分は良くない。それでも変な視線には日常の兼ね合いで慣れている。今までの経緯を頭の中で整理しながら、ゆったりとサミラの続報を待っていた。
途中でグリフィスはサミラに呼び出されて退席する。何か神妙な声質だった気がするような……気のせいだろうか。
それと共にギルドが騒がしくなる。時間帯の兼ね合いか、人が増えたのだろう。ギルド職員もお疲れ様なことだと心の中で労う。
しかしその喧騒がただ騒々しいというよりは何かの事態が起こったときのもののようだと察し始める。なんか嫌な予感がするな……と思うも束の間。
侑希に金属の揺れる音が響き、それと共に何かが近づいてくる。一体なんだろう、と振り返ってみると……
「お前か? 伝説の能力を顕現させたのは」
全身に鎧甲冑を装備した騎士二人に囲まれた白髪の老人が、そう問い詰めながら侑希に歩みよってきた。
(えっ、ちょっ、これマズいやつ!?)
侑希の内心が大雨になったのは言うまでも無いだろう。
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