第3話 カミル・ド・ウェフダー
その長身長髪白い肌は魔族の特徴。
そのツンと尖った耳は奴だけの特徴。
凛々しい瞳はいつも気難しそうに眉間に皺を寄せて、俺へと振り向いた。
その姿は、サイト・アキの宿敵であり、冷血非道の魔王…
「カミル…カミル・ド・ウェフダー…」
残虐な性格とは対照的なこのイケメン具合ときたら男でも見惚れる程。生前イケメンには嫉妬心しか抱かなかった俺がこんなイケメンを描いていたのだと感心さえ芽生える。
一方で、血腥い匂いはまだそこに漂っていて。嗅いだ事の無い異臭に寸前まで上る吐き気。
ダメだ耐えろ俺!あのカミルの目の前で吐くなんてことがあれば打首獄門不回避に決まって…
「貴様、何故私の名を知っている」
いや、声もかっけー!女達の言う"耳が妊娠した"なんて言葉、一生共感できないと思っていたが…今まで悪かったなみんな…これから仲良くしようぜ…
そんな脳内会議をしている余裕は疾うに無かったらしい。
ぎりぎりで抑え込んでいたものは一瞬の興奮により崩壊した。
…要するに今朝のカレーを吐きました。
***
「あの…ッウ"…ほんとすんません…俺グロいのとか苦手で…ウ゛ェ…血とか無理…」
「喋るか吐くか、どっちかにしろ」
木漏れ日差し込む森の中。
物語に出てきそうなこの空間でげっそりと這う俺は非常に浮いた存在。不審者を見るように鹿や子リスが遠くから覗く。
川の冷水を飲んだおかげで吐き気は治まってきた。しかし、問題は隣のこの男。
「…」
ちらりと横目で伺っても、打首でも蹴とばすでもなく。ただ何もせずに俺の様子を見るだけ。
な、何?何だ…?何が目的だ?
あのグラムソードにこの容姿。間違いなくカミル・ド・ウェフダー。
極悪非道のカミルが良心だけで俺をここまで運んだなんてあり得ない。
何か…何か裏があるはず…。
一先ずここは…
「す、すんませんッシタァー!」
埋まる勢いで地面に額を擦りつける。
相手は外国人だが心からの土下座を見せつければ許してもらえるだろう。
「あのほんとに!今お金とか持ってないんですけどまじで!まじで命だけは勘弁してください!」
「…何を言ってるんだ」
地面とカミルに頭を行き来させれば、苦虫を噛み潰したような顔を見せる野郎。
予想通り怯んだ…と言うか、あれ?引いてる?
とにかく土下座の威力は絶大らしい。へへ…どうだ!あの冷血漢さえ揺るがせた日本のリーサルウェポンの力は!恥も外聞もプライドも捨てた、これぞジャパニーズ匠。イッツ侍ってもんよ。
「とにかく話を聞け」
いや待てよ。普段背負っている筈のソードを手にしている事が気になる。
これはまさか油断させたところでガッと行ってグッとスッとしてくるあれみたいなあれなのかもしれない。
さすがカミル・・・侮れん。
ここは一つ秘技でも見せてやるか。あの技は考えるだけで催しそうになるが、心頭滅却すれば何とやらだ。
「おい聞いてるのか。だから私は貴様に危害を加えるつもりはないと」
「ほんと靴の裏でもなんでも舐めるんで!あっ、今舐めちゃいます?いっちゃいます?ほんとお客さんモノ好きなんだかこのスケベ_」
胡麻すり笑顔でその靴に這い寄った俺の脳天には、間髪入れずに降り注ぐソードの柄。勝ち割れる程の重みと硬さで黙るどころか地面にめり込んだ。
「き、危害加えないって言ったじゃねーか…」
「聞こえていたのならその奇行をどうにかしろ」
土って・・・温かいんだね…って違う違う!
まだまだ疑問点は浮き上がるばかり。昆虫の気持ちになってる場合ではない。
しっかりしろ俺!最恐の不死鳥だかなんだかしらねーが、元は俺が生みだした男、息子みたいなもんじゃないか。怯むな。舐められたら一生反抗期のままだぞ。ボンタン短ランで族に走り、金髪ギャルと健康サンダルでコンビニなんて許さん。無駄に襟足の長い孫なんて許さんぞ!ここは父として息子を…
いや待て。あの赤子にも容赦なく手を下すような男が、目の前で催した俺を介抱した挙句、本当に危害を加えてこない。まさか、今は黒幕の信仰に遭う前…?
カミル・ド・ウェフダーは黒幕の洗脳により闇落ちし、暴走を始めると言う設定になっているんだ。その集団に会う前ならば、この突然のキャラ変も辻褄が合う。
となると、もう一つの問題が浮かぶ。
口から流れる血を拭きながら、再びその顔を見上げた。
「お前どうして死後の世界にいるんだ?まさか、」
「………俺のことが好きなのか」
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