第3話 練習

晴れて合唱リーダーになった僕は、クラスから”裏”合唱リーダーと呼ばれ、クラスメイトから受け入れてもらうことが出来た。

そういう風にクラスメイトから呼ばれている僕を見て彩香ちゃんも笑ってくれた。

 

 そんな中、僕らは毎日何度も歌を練習した。

担任の前川が僕たちの合唱の様子をビデオに収めてくれて、前川の授業中に撮ったビデオを教室に取り付けられているテレビで見せてくれたりもした。

そして、とうとう本番一日前となった。

"彩香ちゃんも"、クラス全体も緊張感に包まれていた。

その日も普段どおり歌を練習した。

練習時間は、例によって放課後の十九時まで及んだ。

練習が終わると唐突に前川は言った。

「みんな。お疲れ様!来れる人だけでいいから、合唱コンクール当日になる明日、

少し早く来て、会場へ行くためのバスが来るまでグラウンドで練習しないか?」

我が校の合唱コンクールは学校で貸し切っているステージで行うことになっており、ステージまでは貸し切りのバスで移動することになっている。

「「はい!」」

クラス一同返事をした。

この時僕は、クラスが団結しているのを感じることが出来た。

おそらくみんなそう感じただろうなと思った。

・・・・・・・・・・・・・・・


「クシュン」

可愛いらしい女子のくしゃみが僕には微かに聞こえた・・・


合唱コンクール当日の朝になった。

グラウンドにはクラス全員揃うことはなかった、伴奏の彩香ちゃんが風邪で欠席したのだ。


「伴奏者どうするんだ...」ざわざわと周りが騒ぎ始めた。

前川も頭を抱えていた。

そんな時、聞き覚えのない声が聞こえた。

「あ...あの...わ...私やります。」

そう言ってクラスの中で目立たない女子が声をひねり上げた。僕は初めてその子の声を耳にした気がした。

前川は恵子に尋ねた。

「そ、そうか。恵子さんピアノ弾けるのか?」

それを聞いた恵子は自身がなさそうに言葉を紡ぎ精一杯の勇気を振り絞り言った。

「小学六年生まで習っていましたので、なんとか・・・」

前川は藁にもすがるような気持ちで言った。

「そ、そうか、申し訳ないがお願いしてもいいか?」

恵子は自身なさげにうなずいた。

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