第3話 今後の方針

 馬車の中に入り、俺たちは向かい合うように席に座った。

 ゆっくりと揺られながら王都へ向かう途中、坂内は先程とは違い、落ち着いた様子で俺に話しかけた。


「ねえ、私たち…本当に異世界に来てしまったのかな?」


「がっつりモンスターみたいなやつ見ちゃったしな…」


「これからどうしていけばいいの?このまま帰れなかったらどうなるの?ママやパパだって心配するし、一週間以上帰って来なかったらどこかで殺されたって思っても不思議じゃない。でもこんなわけのわからないところに来ちゃってるしそんな簡単に帰れるわけがない。私たちどうすればいいの…?」


 彼女の声が震えて、涙が頬を伝っている。

 不安と困惑。

 そんな様子が見て取れた。

 俺も同じだ。

 こんなことになってる実感が湧かないだけで、この先のことや色々な問題を冷静に整理してみると泣き叫んでもおかしくない状況だ。


「そうだな。こんなところじゃ電話もできないし俺たちは無事だよって伝えることもできない。きっと俺たちが帰って来なくてそのうち探し出すだろうな。俺たちを大事に思っていてくれていればいるほど何年も何年も何年も。だから、俺たちがやるべきことは一つだけだろ。とりあえず、ちゃんと生きて何年かかっても絶対に帰る。」


「そうね…そうよね」


「まあでも言ってもしょうがない気がするけど、なんで俺たちなんだよとは思うよな。日本の人口は1億以上、もっと言えば世界の人口は何十億人もいるっていうのにどんな確率だよ」


「災難ね…」


「そうだな。とりあえず資金の面をどうにかしないとな」


 そんなことを話していると馬車が停止した。

 思ったより近かった。

 俺たちは馬車から降りるとそこには驚くべき景色が広がっていた。

 高い城壁に囲まれた王都は、まるで童話の世界から飛び出してきたかのような美しさがあった。

 

「すごい…」


 坂内は呆然とした表情で呟いた。

 俺も同じく、見惚れるような目で景色を眺めた。


「それではご利用ありがとうございました」


 運転してくれた人がまた運転席に戻った。


「あ、すいません。さっきの村に戻るにはどうすればいいですかね?」


 めちゃくちゃ助かったしお金、絶対に返さないとな。

 

「王都の中にも私のようなものがいるのでシエル村に行きたいと言えば連れていってくれますよ」


「ありがとうございます」


 運転手さんと別れた後、俺はカバンからルーズリーフと筆記用具を取り出して村の名前をメモした。

 その後城壁の中に入り、王都の中に広がる風景が目に入った。

 人々がにぎやかに行き交い、異国の音楽や声が耳に心地よく響いてくる。

 市場では新鮮な野菜や果物が並び、工芸品や宝石も美しく並べられていた。


「これが異世界の王都ね…想像していたよりもずっと素敵ね」


「そうだな。海外とかも行ったことないし正直感動した」


 こうして俺たちの新たな生活が始まった。

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