33.それなら絶対に大丈夫です!
五年前の卒業式の日、私立、
学部や学科の一まとめで、順番に講堂を出入りする。そして
順番の早い組は、定番の
ネイビーカラーのリクルートスーツで一人、
とっくに次の組も出てきているから、中で他の組の友人と、話し込んだりしているのだろう。自宅通いの
いや、一人だけいた。
「
来月から工学部三年生になる
高校も後輩で、部活に同じナナミと読む姓がいたから、その頃の知り合いはみんな名前で呼んでくる。特別なことじゃなかった。
「あの、これ! お祝いです! 少し時間がかかっちゃって……
「イタいこと言うな! まさに今、ぼっちでそうするところだったわよ」
思わず、いつもの調子で答えてから、
「シンイチロー、あんたね……たかが卒業に、このチョイスはどうなのよ?」
まじめでおとなしいかと思えば、マイペースで、時々おかしい。素直で、小綺麗で、男友達も女友達も多いだろうに、こうして
むしろ横暴で無神経な先輩だったはずだが、人間関係というのは理屈だけじゃないようだ。
そう、理屈じゃない。違う。特別じゃないというのは、嘘だ。
「ありがとね……正直、学校がキツい時もあった。だから卒業できたのは、あんたのおかげよ」
帰り道のちょっとした買い物に連れ歩いたり、授業が
高校生の頃に、昔に戻ったみたいな、楽な気分だった。
ずっと振り回していた。
「今までごめんね。申しわけないことしてる自覚が、なかったわけじゃないのよ? メンドくさい先輩はいなくなるから、これからは、あんたもちゃんと青春しなさい。応援してあげるわ」
「本当ですかっ?」
お、と思う。
素直だ素直だと思っていたが、ここまで素直に喜ばれると、
「でも、まあ、あんたの保護者的先輩としては、そんじゃそこらの小娘に甘い顔はしないわよ? あたしのメガネにかなうような、立派なお嬢さんを捕まえることね!」
「それなら絶対に大丈夫です! 良かった、本当はすごく、ドキドキしていたんですよ!」
「……んん?」
なんか、会話がつながってないんじゃないか、と思ったが、
「
「……んなっ? なに、言って……」
「本当は、高校の頃からずっと、好きでした! これから先もずっと好きです! 好きで、いさせてください!」
どういうことだ。
好きって、ずっと、って。高校の頃からなんて。
大学であれこれあって、それでも今になってこんな、それはそれでどうかと思うぞ。女なら、完全にメンヘラ扱いだぞ。
年齢だって、こっちが二つも上だ。
男は基本、年下をリードしたがる生き物じゃないのか。女だって、俺さま男子とか壁ドンとか、リードされること前提じゃないか。
頭の中をぐるぐる回す
「あの、
「ちょ、ちょっと……」
「
「あ、あんたね! 告白しながらディスって
自分で言った
気がつけば、講堂前が静かになっていた。もう、
「ま、まあ……その……あれ、よ……」
意味のない音の
「も、ものは試し、って……言うからね……つき合って、みて……みなくも……ないかな、なんて……」
ごにょごにょした
「そこはっ! ありがたき幸せ、でしょうっ! あんたの場合!」
「良かったぁぁぁあああ!
「
「……いっったぁああああい! な、なによ、みんな! もしかして、知ってたの、これ……っ?」
一斉に飛び出してきた友人たちに、ひっくり返った
昔に戻ったわけじゃない。とっくに、新しく進んでいたのだ。気がつかないでいたのは、
静かだった講堂前に、赤の他人たちの、歓声と
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