23.今は違うぞ!
夕食の時間には、少し早い。通り
きれいさっぱり無感情、とはいかないのだから、
ドリンクバーだけを二つ注文して、
「コーヒー、ホットで良いよね?
「自分でやる。余計なことするな」
思わず、声も口調も固くなる。
過剰反応と受け取られるのも
旧世界の旅の途中、親切を
アシャスは立ち上がって、
「懐かしいよね。一緒に暮らしてた頃も……」
「余計なことするな。二回目だぞ」
アシャスが、
「中身のない話なら、これで終わりだ。次に顔を見たら警察に……」
「嘘だよ」
望が、グラスの中の氷を、ストローでくるくると回した。
「見たらすぐわかったって言ったの、嘘だよ。
氷以上にくるくると回る口に、アシャスが唖然とした。
背筋が寒くなるより早く、汗が出る。慌てて、飲む気のなかったコーヒーを一口飲んだ。
「おまえ、いいかげんに……!」
「ごめんね。あやまりたいって言ったの、こっちは嘘じゃないよ」
「あの時は、驚かせちゃって悪かったね。
「い、いや……脱法ハーブなんて、説明されても困るけどさ」
少し違和感のある内容に、アシャスは
「そんな表現は、なんて言うか、
「法律が追いついてないからって、身体におかしな影響があるのは、変わらないだろう」
アシャスの声に、力が入った。
「自分の身体と、未来に無責任だ。恋人だって……二人で、一緒に生きていこうっていう約束じゃないか。そういうのは、相手への裏切りだ」
アシャスは言葉にしながら、そうか、と納得した。
アシャスは、守れない約束ができなかった。姫と一緒に生きていくこと、未来を共にすることはできないとわかっていたから、恋人になることもできなかった。それがアシャスの
魔王を倒せたとしても、魔王より強い力を持ってしまった個人は、次の魔王になる可能性でしかない。平和な世界を実現しても、そこに居場所がないのは、明らかだった。
そして、それもできなかった。どうせ未来などなかったのなら、一緒にいられた時間だけでも、恋人でいれば良かったのか。世界と一緒に消える時、姫はアシャスをどう
考えても、わかるわけがない。なにもかも遅かった。
それでも、ヒカロアが言ってくれた。最後の瞬間に
「なんだか、昔より口調がはっきりしたね」
「え? あ、いや……」
つい、自分自身に向いていた意識を、引き戻された。アシャスは、また慌てて、コーヒーを飲み干した。
「嬉しいよ。俺とのこと、そこまで真剣に、考えてくれていたんだね」
「い、今は違うぞ! もうすぐ、その……結婚、するんだし……」
「聞いたよ。おめでとうが遅くなって、これもやっぱり、ごめんね。俺も、ほら……一応は自主退学の形だったけど、あの頃の友達に、連絡しにくくってさ」
肩をすくめた
合法か違法か、写っているものが本当はどんな物質なのか、そんなことは関係なかった。他人が、社会がどう受け止めるかが最重要だ。
公共というものは、学生や未成年者が考えるほど、軽くない。仮にそれを変えようとするならば、まず他人と社会を理解し、理性と知性、時間と努力とひたむきさが必要になる。最初の手順から無視しておいて、なにを言っても通らない。
それはそれとして、だ。
知ったからには、大学側の処置は適切だ。明確な違法でなくとも、怪しげな薬物使用を擁護する筋合いはない。一瞬で情報拡散したのだから、放置もできなかっただろう。
適切かどうかを疑うとすれば、
「あれは……やりすぎだったって、思ってるよ。こっちからも、ごめん」
アシャスは、
死ぬか殺すか、二つに一つの戦いは、最後の手段だ。
最初から強制するのは、
すでに、そこに固定されていた旧世界で、勇者として戦い続けたアシャスの気持ちが、言わせた謝罪だった。
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