17.今さらよ!
窓の外、マンションの下に、かすかなエンジン音とブレーキ音を聞いた。
一人、いや一匹静かな、
読書を終了して、タブレットから目を離す。
なんの気がねもなく趣味に没頭できる時間は、
「貴族、富豪、法律家か……それほど大層な話でも、あるまいが」
猫としての五感ではなく、
ふと、あくびがもれた。
「この不始末、どう使うのがおもしろいかな」
この程度の質量を空中移動させるのは、魔王と呼ばれた
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あそこまで言ったのだから、警察として、
「今日は、ホントにお疲れさま! うちの親のせいで、段取りは滅茶苦茶だったけど……しっかり
「ありがとう。みんな喜んでくれて、僕も嬉しかったよ」
「どうする、お茶でも飲んでく?」
「
「あはは! まあ、それこそ今日みたいな滅茶苦茶にならないよう、親に
平日なら、まだ退勤の時間帯だ。
「なあ、
アシャスが、つい、口を出した。
「なにを話せってのよ?」
「いや、ほら……さっきの、黒歴史の最後だろ。
「だとしても、あたしにどうこう言われても困るわよ。昔の話を持ち出されて、お兄ちゃんにも、ホントいい迷惑だわ」
「そうかも知れないけど……前の恋人だろ? 男ってそういうの、理屈じゃなくて、どうしても気になるって言うか……」
「シンイチローが、そんなこと気にするわけないじゃない」
同じ
それでも、口調が強くなっていた。
「思い出したくもないけど、シンイチローが大学に来た時、あの男とまだつき合ってたもの。
「それは、やりすぎだったと思うよ」
「うっさい! とにかくシンイチローだって、あたしのそういうの知っててここまで来たんだから、今さらよ! 現在進行形で! 恋人で! 婚約者! これ以上、なにを話させようってのよっ?」
「そうだけどさ……」
アシャスが口ごもる。
こんな考え方が
清く正しい、生涯一度の愛の
それでもこんな形で、大切な相手の過去がちらつくのは、つらいだろう。
「……あんた、そういう奴だもんね。意地張っても無駄だから白状するけど、言いたいことはわかってるわよ。乙女心ってのも、簡単に捨てられるもんじゃないしね」
「でも、しょうがないじゃない……あんたはともかく、世の中、女にばっかり一発必中で生涯のパートナーを見極めろって押しつけてきても、正直キツいわよ。小娘がイケメンに
「いや、それは……」
いいかげんな恋愛をしたつもりはないけれど、痛い結果と事実を、蒸し返された。それがアシャスにも伝わった。
「不思議よね。お
「そうじゃない。ごめん……違うよ」
アシャスは
後悔していた。今日一番の、余計なことをしたのは、間違いなくこの場のアシャスだった。
なんの落ち度もないことで、
心の底から恥ずかしかった。それが、今度は逆に、
頭を下げた姿勢のまま、
「自分同士で責めて、あやまって、変な感じ。でも、そうよね……あんたの言う通り、シンイチローとも、もっと話せば良いのよね。素直な気持ちを、何度でも……言わなくてもわかってるはず、じゃ、確かに上から目線の甘えだわ」
「
「いろいろあったけど、そんなあたしに
アシャスにしてみれば、それどころではない。背筋を正し、気を引きしめ、剣を眼前に
「悪かった。いつの間にか甘えていたのは、俺の方だ。そもそも、二人のことに立ち入れた義理じゃない、正真正銘の厄介者だった。今からでも、この状態を
「まだそんなこと言うの? とっくに終わってた話じゃない」
腰に手を当てて、笑って、すっかりいつもの調子だった。笑うついでに、右手の人差し指を、びしりと目の前の空間に突きつける。
「あんたはあたし! シンイチローもヒカっちも、みんなまとめて幸せになるの!
「百三十八億年も転生も、
考えてみれば、一人の人間の知覚なんて、限られたものだ。
どんな世界や時間の広がりも、人生の部分集合に過ぎない。幸せの追求に比べれば、
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