16.君は良い奴だな。
言わないでいるといつまでも引き止められそうなので、
「それじゃあ、車で送るよ。
「はい、ありがとうございます」
おみやげに重箱を持ち出す勢いの
「ああ、もう。自分の家ながら、無駄に疲れたわ! お父さんもお母さんもはしゃいじゃって、シンイチローも大変だったでしょ?」
「そんなことないよ。緊張もしなかったし、歓迎してくれて楽しかったよ」
「俺がいるのに、そうだね、とは言えないよなあ。悪いね、
慣れた調子で運転しながら、
「切り替えが早いのは長所よ! それよりさ、ほら! あれ出してよ、窓から屋根につけるサイレン! やってみたい!」
「パトライトだ。言うと思ったから、置いてきた。プライベートで使えるか」
「なによ、ケチー!」
当然、赤信号にきっちり停車する。兄妹のやりとりに、
車内では、アシャスもヒカロアも、慎重に口をつぐんだ。
「
青信号で、スムーズに加速しながら、
「はい。キハラ電機技研で、ロボットアームなんかの開発に
「技術屋さんかあ、優秀だね。お母さんは確か、
「……お兄ちゃん?」
先日と今日で、お互いの親に
それでも、口調は変えずにはっきり確認を取る
「
「悪かったわね!」
「父さんも母さんも、君のことが好きみたいだ。ちょっと、別人みたいな雰囲気を感じる時もあるけど……まあ、直接会ってみて、俺も君が好きになれた。だから、つい、
「最近、都内の大学生たちの間で、新しいドラッグもどきが流通してる。もとは、
「脱法ハーブって言うと、厳密には合成化学薬品を後から添加した乾燥植物で、自然物由来の場合はちょっと違うんだけど、まあ、そんな感じの物だと思ってくれ」
どちらにしても、法律で禁止されていないが、身体に
「成分の
毒なら、アシャスも知っていた。転生前の旧世界で、敵に毒を持つ魔物もいたし、人間側も利用した。種類も効能も様々だ。
そして根本的な事実として、どんな物質でも、大量に吸収すれば
「そのドラッグもどきが、
「薬事法は元より、
「なによ、それ! あたしにもシンイチローにも、関係ないじゃない!」
「
「
「
「当時も今も、法律違反じゃない。だから
「……そう、ですね」
ずっと黙って聞いていた
「どうしろって言うのよ!」
「本題だ。
「
車内に沈黙が降りた。
肯定とか、否定とかではない。突然に表面化した、思いもかけなかった事態を受け止めるまでの空白、そういう沈黙だった。
車は、いつの間にか首都高速環状線から出て、
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