12.その意気です。
翌朝のアシャスの目覚めは、予想できたことだが、一人で大騒ぎだった。
最近はすっかり
ダブルベッドの隣では満ち足りた表情のヒカロアが、
やっぱり、絞め殺される
「お、おお、おまえっ! 先に起きたんなら、離れてろよ! こ、心の準備とか、そういうのが全然できてないんだよ! ショック死してやるぞ、気持ち的にっ!」
「気をつけます」
風に舞う羽根のように軽い返事に、アシャスは追加の文句を飲み込んだ。顔が
着替えて、化粧をして、朝食のビュッフェに降りる頃には
「おまえ、結婚したら際限なく太るぞ」
「うっさい、ヘナチョコ! いくらあたしでも、普段からこんな
「結婚してからもデートをたくさんしようね、
「その意気です。
部屋のチェックアウトを済ませて式場に行くと、貸し衣装の試着は、他にもたくさんの参加者がいた。
大広間にウェディングドレスや
隣接の小部屋で着つけスタッフが対応し、広間の奥は姿見を並べた、撮影可のスペースだ。みんな思い思いの衣装を着て、華やいでいた。
「ドレスって一口に言っても、いろいろあるんだな……。姫さまは、なんか、いっつも同じようなの着てたけど」
「そう思っていたのは、あなただけですよ。口を
昨日、
対して、さっそく純白のウェディングドレスに着替えた
「すごく綺麗だよ!
「でしょでしょ! あたし、こういう好みにひねりがないのよ! スラっとしたのも素敵だけどさ!」
プリンセスラインのスカートが大きな花のようで、オフショルダーのビスチェとトレーンも
「すいませーん、とりあえずこれ仮予約して、あとあっちのショップさんのと、それからマーメイドとエンパイアも持って来てくださーい!」
ウェディングプランナーと会場スタッフが、また小間使いのようにまめまめしい。
「好みじゃないのも試すのか? なんでそんな、意味のないこと……」
「意味ないって思う方が謎だわ。本番は一生一度なんだし、この機会に片っぱしから全部、試してみたいくらいよ!」
「まあ、見てるだけのこっちは、楽だけどな」
「甘いわよ! ほら、ヒカっちも! スマホ撮影だからって、気を抜かない! モデルを
「そうですね。とても綺麗ですよ、アシャス」
「そ、そこは俺じゃないだろう!」
「おお! さすがの一言ね、それはそれで
慌てるアシャスと、
「ヒカロアさんって、本当にブレないですよね」
「アシャスは昔からこうでしたよ。純情で優しくて、素直じゃなくて……そういうところを愛したのですから、今さら、私がゆらぐことなんてあり得ません」
「おまえそれ、良い
ウェディングドレス姿のまま、アシャスがじとりと目を細める。ヒカロアの笑顔は、いっそ
「それはもう、どんな決定的なシーンを見せつけられても、ゆらぎませんとも。こんな愛され
「わああああああッ! それ言うな、バカぁああッ!」
「あはははははは! ガチでヘナチョコじゃない、あんた! ヒカっちネトラレ? かわいそー!」
「うるさいッ! 寝ても取られてもいないよッ! 忘れろぉぉおおおッ!」
「あはははは! お尻! お尻って! かじられ……あははははははは!」
絶叫と大爆笑を繰り返す
それでも、すぐにまた、自分たちの幸せに没頭する。人類の、そういう部分集合だ。
********************
薄暗い実験室に、電子機器の稼働音が低く響いていた。
明滅するインジケーターの光が、複雑に配置された器具と、机の上にずらりとならんだ、無色透明な液体の入った
その机に足を投げ出して、男が一人、
背の高い
「
男が、
男の周囲、実験室の床という床に、園芸用のプランターが置いてあった。
そして葉の影に隠れるように、女が二人、眠っていた。
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