5.なんでそうなる!
アシャスは
「……え……?」
「猫缶か。今日はマグロ味の気分だ、急げよ」
急げ、と言われたところで、思考が追いつかない。アシャスはゆっくりと、首をめぐらせてミツヒデを見た。
「ええと……」
「それではないぞ。切らしているのなら、誠心誠意、
ふんぞり返ったミツヒデに、アシャスが、
「お、おま……しゃべっ……ええええええっ? おまえ、な、なに……っ?」
「何者と聞いたか? おまえに名乗るのは二回目だ。魔王ワスティスヴェントスだよ。久しいな、勇者」
ミツヒデが、前足で自分の顔をなでる。黄金色の流し目が、にやりと笑ったようだった。
「おまえたちに滅ぼされてから
「ま……魔王っ? な、なな、なんで、おまえが……?」
アシャスは、とりあえずマグロ味の猫缶を取り出し直して、後ずさった。ダイニングキッチンではたかが知れているが、それでもギリギリまで距離を開ける。
魔王ワスティスヴェントスは前の世界、いや、ヒカロアが<
四本の角に銀髪、
万物を永遠不変に固定、
それがすでに終末期を迎え、
アシャスはそれで良かった。
最悪の罪を背負って、終わらせるつもりだった。だがアシャスの願いを受けたヒカロアが、三神器の役割と罪を一身に背負って、アシャスの<
「なぜ、か。知れたこと……おまえに復讐するため、転生したのだ」
ミツヒデが、いや魔王ワスティスヴェントスが、後ろ足で首をかきながらあくびをした。今は室内飼いだが、実家にいた頃からの習慣で続けている、ノミ
「転生……? ええ? おまえも、か……?」
「うむ。
「め、女神さまっ? なにその平等精神? いや、そもそもおまえ、女神さまが出てきた最後、とっくに死んでただろっ?」
「生も死も、
「それだけ
アシャスの声が、思わず裏返った。愉快そうにミツヒデが目を細める。猫だけに、可愛いのが始末に悪い。
ついつい猫缶を開けて皿に盛りながら、アシャスはかぶりを振った。
「そ、それにしても……なんで、猫なんかに……? 俺に復讐って……その状態で、どうする気だよ……?」
「殺す殺されるは、前世で
満足そうに、にゃあ、と鳴いて、ミツヒデが差し出された皿のマグロ味にかじりつく。
まるまると黒い、毛皮のおまんじゅうだ。気を抜くと、なでてしまいそうだった。ぺた、ぺた、と床をはたく尻尾も、求心力がすごい。
アシャスの
「ふふふ。そう、殺しはしない。勇者よ、おまえを生きたまま、
「なに……っ?」
「言われなければわからんか? 気が
「え……? ああ、そうか。汚れてるもんな、悪い……」
「水皿も洗え」
「ちょっと待て、順番に……」
まだスイーツもお
「違う! なんでそうなる! おまえ、なにをいばり散らして……っ!」
「食後のおやつは、あばんチュールを
「た、高いんだぞ、あれ! おいそれと出せるか!」
「そんなやせ我慢が、
「語尾にニャとか、あざといぞ! 大体、なんだその一人称っ? 前はもっと普通だったろ!」
「猫なら
「どういうリスペクトだよっ? って言うか、おまえはどうして読んでるんだよっ?」
「電子書籍を購読した」
「な……」
絶句して、
「まさか、タブレットで勝手に?」
大慌てで、リビングテーブルに出しっぱなしにしていたタブレットを開く。閲覧履歴、買い物履歴ともに、覚えのない情報でスクロールが止まらない。
「ああああっ、おまえ、こんなに……っ! パスワードとかカード番号とか、どうやって……」
「
当然と言えば当然の答えに、アシャスは口を
「飼い猫だと思って、油断したな。魔王というのは、統治組織の長だぞ。おまえたちのような
「野良猫でも犬でも油断するよ! なんだよ、そんななりで、えらそうに!」
「真の知性は、
「この……調子に乗って……!」
「まあ、保存データのほとんどが画像と動画なのだから、是非もないな。苦しゅうないぞ。魔物社会は、その方面も
「ほ、方面?
「特に、画像フォルダは興味深かった。シチュエーションの細分化は、なかなかに詳細な分析と、更新にかける情熱が……」
「いや、ちがっ……それはっ!
「槍使いも転生しておるだろう。理解が深いのは、良いことだ」
「……っ」
アシャスの脳内に、めくるめく画像フォルダが再生された。
アシャスは
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