8.またそんな言い方する。
結局、あの後は丸一日、アシャスが仕事をさせられた。
定時で手早く切り上げて、地下鉄を乗り継いで、マンションに帰り着く。
「夕食は昨日のデートで買い込んだ、百貨店のお
「いらないわよー。夜は炭水化物抜きが良いって、イケメンのテニス選手が言ってた」
「それは小麦グルテン抜きだろ。自分の記憶くらい、ちゃんと整理しろよ」
ぶつくさと一人で言い合いながら、ダイニングキッチンの扉を開く。中を見て、少し固まった。
黒猫のミツヒデの他に、
そろって、アシャスに顔を向ける。
「な……なんだ、おまえらっ? おい、ミツヒデ! こいつら……」
「魔王さまニャ!
三毛猫が、前足を振り上げて叫ぶ。転生前の女神の
「なんだよ、もう! 他にも誰だか、いたのかよ!」
「ニャんだ、その言いぐさは! にっくき勇者め、我らの顔を忘れたかニャ!」
「変わってるだろ、顔! 多分!」
毛を逆立てる三毛猫に、アシャスがまともに反論する。
ハトが、ハスキー犬の頭に飛び乗って、格好をつけるように片翼を広げた。
「
無駄に
続けて、頭に乗られたハスキー犬が、気を
「同じく、地のディノディアロにござる!」
渋い男の声が、実直で単純そうな犬種のイメージに合っていた。リード用の、上品な革の首輪もしている。どこかの飼い犬だ。
「み、水のガロウィーナです」
おずおずと、サバトラの猫が頭を下げる。態度だけでなく、声も口調も、どこか気の弱そうな女のそれだ。
「そして四天王のリーダー、火のブライストラ! 魔王さまの
一羽一頭二匹の最後に三毛猫が、後ろ足で立つ勢いで大声を張り上げる。わかりにくいが、三毛猫だから高確率で
「おまえはバカそうだから、語尾に違和感ないな」
「ニャんだとう!」
アシャスの正直な感想に、三毛猫、火のブライストラが、また毛を逆立てる。ミツヒデが、にゃあ、と、えらそうに鳴いた。
「
「まあ……見てくれは、信じやすいけどな。思い出したよ。いたな、四天王だかなんだか、面倒だった魔物。ほとんどヒカロアが倒してたから、俺は印象が薄いけど」
アシャスがため息をつく。
「それにしたって、また、どうして……」
「最終決戦で説明したと思うが、
「な……」
「どうだ。女神は
確かに、と、アシャスもあきれずにはいられない。いくらもののついでと言っても、転生の仕方がどうかしている。
「風のハトと、地のハスキー犬はともかく……水と火が、なんで猫なんだ? 基準がわからないよな、これ」
「うるさいニャ! 現世には、ちょうど良いのがいなかったのニャ!」
三毛猫がまた怒る。なるほど、そういうところは火っぽいと言えた。
「水は魚で良いじゃないか。火は……確かに、どうしようもないな。タヌキなら、せめて背中が燃やされてるイメージだぞ」
「そ、そんな一人罰ゲームな行動制限、いりません!」
「燃やされてる、ってのはなんニャ! イメージで殺されたらたまらんニャ!」
「うん。まあ、そうか」
サバトラ猫と三毛猫の主張に、一応、納得する。
なにをどう納得したのか、自分でもわからないが、アシャスは考えるのをやめた。
そして、にゃあにゃあクルッポーバウワウとうるさいダイニングキッチンを背に、バスルームでお湯を入れ始めた。
********************
クレンジングオイルで化粧を落とし、髪と身体を洗ってから、暖かいお湯に肩までつかる。
髪の洗い方で、
とにかくいろいろ、ありすぎた。
「なによ、だらしないわねえ。仕事はやらせちゃったけど、それ以外は全部、あんたの知り合いじゃない」
「そうだけど……いや、そうだな。
「またそんな言い方する。キャラが増えて楽しい、って言ってんの」
「あたしは、なんにも迷惑してないよ。面倒なことやってもらえるし、あんたとヒカっちも
「カップルじゃないよ!」
「愛してるって言ったじゃん」
「それは……」
アシャスが口ごもる。
男同士と言い返して、むしろ喜ばれるのだから世話がない。身体的には男女なのだから、なおさらだ。取り残された
「……そんな、簡単なもんじゃないよ」
「ま、良いけどねー。ヤる気になったら、いつでもオッケーよ! すぐにシンイチロー呼んであげるから!」
「き、昨日も言ったけど、女の子は
「あんた、あたしでしょ。理事長先生やミツヒデも言ってたけどさ、確かに他人って感じじゃないのよね。自分相手に
当たり前だが、裸だ。けっこう自慢できる大きさの胸も、それなりに細いウェストも、お尻も見下ろせる。
認識しているのは
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