と
「や~だ。雪ちゃん。またそんな怖い顔して~」
城下の定食屋『真木野』にて。古ぼけた店内で、長髪を後頭上部で一つに括り垂れ流す流麗男性、
「笑うって事を覚えんとな」
角刈りで自分こそ笑った事なんてないだろうと突っ込みたくなるほど強面の男性、
柔と剛。二人を見た武兵が抱いた感想だった。
「ふ~ん。この二人が破壊神ってわけ?」
自分たちと店主以外居ない状況だからか。人目も憚らずにそう告げた澄義に、雪那は少しだけ目を見開いた。
「聞いていたのか?」
「まぁ、代々継承されるもんだから。ね?」
澄義に顔を向けられた仁科はああと頷いた。
「言うに値する大将にだけだがな」
言うや、仁科は立ち上がり、武兵の髪の毛を掻き回した。
「おい」
手を離した後膝を屈して自分に視線を合わせる仁科を、武兵はじとっと睨んだ。
「直ぐに戦闘態勢に入るかと思ったが。何じゃ」
仁科は残念じゃと肩を空かした。
「人を見境ない動物か何かと勘違いすんなよな」
「なるほどねぇ」
うどんを食べ終えて箸を置いた澄義は、意味深な笑みを浮かべて言葉を紡いだ。
「雪ちゃんじゃないと駄目なのね」
「…ああ、そうだよ」
武兵は吐き捨てるように告げた。
「どう言う意味だ?」
眉根を寄せる雪那に、あのねと、椅子ごと彼女に身体を向けた澄義は答え始めた。
「闘い大好きなこの子たちが、自分たちの最強を倒した相手と闘いたいと思うのはごく自然な事でしょう?」
「つまり、暴走を止めて欲しい為に来たわけではなく、闘う為に来たと?」
雪那は澄義から武兵へと視線を合わせた。武兵はハッと短い息を吐くや、そうだよと告げた。
「俺はな。こいつ「こんちわ!」
武兵が紗綾へ顔を向けた時だった。短髪に猫のような口元の一人の少年が意気揚々と店の中に入って来て、仁科らを見止めるや、淀みなくそちらへと足を向け、彼に付き添うように白髪のお団子頭で温顔の老齢女性も付かず離れずの距離で歩を進めて来た。
「仁科ちゃん。真澄ちゃん。雪那ちゃん。元気?」
名を呼んだ三人を交互に見つめていた少年は、見かけない顔の二人に気付き顔を向けた。
「誰?」
「陸龍武兵と破虎紗綾。今日から雪ちゃんの直属の部下になったってわけ」
「へ~。それはご苦労さんだねえ」
言うや、少年は武兵と紗綾の肩を軽く叩いた。
「雪那ちゃん。愛想なんて微塵もなくて焔様にしか興味ない超堅物だけど、良い子だから。仲良くしてあげてね」
「何こいつ?」
腰に手を当ててナハハと笑う少年を呆れ顔で見た武兵。彼の後ろに佇む老婆も含めて、話が一番通じやすいと感じた澄義に説明を求めた。
「彼は
澄義は立ち上がり二歩ほど進んで振り返り、二人の肩に手を添えながら説明を続けた。
「颯天は『桜火』現国王、桜火熒様に一目惚れをして猛アタック中の男の子。熒様と同じ十一歳で、競国家勢力の一員。って言っても、彼と彼の補佐役の三園さんしか居ないけどね」
澄義はくすりと一笑を溢した。武兵はその聞き慣れぬ単語を問いかけた。
「うちの国には今三つの勢力があってね。一つは現国家勢力。まぁ、大半の国民は此処に属している。一つは競国家勢力。この国に新しい国家を立てようとしてんのよ。二人で。んで、もう一つが反国家勢力ってわけ」
「こいつら反国家勢力じゃないのか?」
「俺別に今の国家に不満があるわけじゃないから」
颯天は手を振りながらそう告げた。
「じゃあ何で国家を立てようなんて考えてんだ?」
途端、颯天はむふふと笑みを浮かばせた口元を両手で隠しながら告げた。
「理想の夫婦になる為」
「は?」
目が点になる武兵に、颯天はだからさ~と片手を口元に添えたまま、もう片方の手で客を呼ぶ店子のように手招きをしながら告げた。
「俺さ。一蓮托生よりも切磋琢磨する夫婦像に憧れててさ。追い越し追い越されるの。熒ちゃん。王様じゃん。なら俺も王様目指すしかないっしょ。国家立てるしかないっしょ」
「ああ。なるほどね。だから競うね」
力なく告げる武兵に、澄義はそうなのと告げた。
「人畜無害だし放っているってわけ」
「脈あるわけ?」
苦笑を溢した澄義は人差し指を交差させた。だろうなと呟いた武兵は三園に視線を向けた。
「本気なの?」
「こういう国の在り方も有りかと思いまして」
「そうかぁ~?」
(一つの国に二つの国家って。混乱するだけだろう)
苦言を呈そうとするも、その穏やかな笑みに、心中に吐露するだけに留められる。
(ま。どーでもいいしな)
「でもさ。何で二人とも此処に来たわけ?『陸龍』と『破虎』って、ほとんどあの土地から離れないでしょ?やっぱ。修行の成果を試しに?」
「俺は「でえ!昼食時間終った!星爺にどやされる!」
傍観者で居た仁科は顔面蒼白になったかと思えば声を荒げ、店主にご馳走さんと告げると、血相を変えて猪の如く一直線に城へと向かった。
「俺「『
店の外から聞こえてきた声にいち早く反応を示した雪那。手頸を掴まれ逡巡する武兵と紗綾をよそに、店の外へと飛び出した。
「変わるかもね」
「まぁ、ね」
店の出入り口で一時三人の背中を見つめていた颯天と澄義、三園。そのまま店の中に戻り注文を始めた。
「そう言えば。澄義ちゃんは行かなくて言いわけ?」
注文を待っている間、同じ机の向い合せに座った颯天は箸を三園に渡しながら問いかけた。
「だって私今休暇中だもの」
澄義はクリーム餡蜜をスプーンで口に運んだ後、幸福感満ちる微笑を浮かべてそう告げた。
「やっぱり食後にデザートは欠かせないわよね~」
澄義は噛み締めるように咀嚼しながら餡蜜を運ぶ。
「熒ちゃん。元気?」
今までの元気溌剌さは何処へ消えたのか。注文して机に運ばれたカレーライスに視線を落としながら、恥じらう乙女のように音量を抑えて問いかける颯天。澄義が元気よと答えると、そうと安堵した表情を浮かべた。
(初々しいわね~)
微笑ましい彼に、自然と場の空気が和む中、鶯の鳴き声まで店の中に届き、春の陽気に相応しい雰囲気が出来上がった。
「三園さんが居るから大丈夫だろうけど、あまり無茶しないのよ」
「分かってるって」
「坊ちゃん。三十回は噛まないといけませんよ」
「分かってるって」
カレーライスを口の中に頬張る颯天。この時ばかりは年相応の少年に見えた。
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