は
黒漆喰の壁と純白の瓦に包まれた『桜火城』の一室。畳と障子、襖と純和風に囲まれた部屋に似つかわしくない重厚感ある洋風の椅子に座る、桃色の長髪にあどけない面立ちの少女は初めて聞くであろう慌ただしい足取りに、目の前に佇む二人の人物から彼らの後ろにある襖へと視線を向けた。
「
それから数秒を待たずして、平時礼儀正しく冷めた態度しか取らない少女が、扉を叩く事もせずに部屋の中に入り込んで来た。
「
熒と呼ばれた少女は、客人二人の後ろで立ち止まって彼らを睨みつける、紫色の短髪に翠色の瞳を持つ少女、雪那を静かに諌めた。部屋に入った途端、その特徴のある髪色を持つ二人を注意深く見つめていた雪那であったが、熒にそう告げられ、素直に頭を下げた。
未だに背を向ける二人の人物にではなく、自分の主たる国王に。
熒は雪那にやれやれと思いつつも、もういいからこっちに来るように告げると、雪那は頭を上げるや二人の人物の横を素通りし、熒の右斜め前に足を止めて、今度は真正面から客人である銀髪に紅の瞳の少年と金髪に蒼の瞳の少女を見つめた。
「もしかしてこいつが?」
「そう。あなたたちの救世主」
「これは?」
銀髪の少年と熒の短い会話が終わった後、熒の左斜めに佇んでいたはずの
黒一色の表紙と白一色の裏表紙、かつ題名がないその本に、奇妙な本だなと思いつつ、本を開いた。茶色に変色していた紙に年代を感じ、何も書かれていない初めの頁に見切りをつけ、破れないよう慎重に頁をめくった。
「読めるのね?」
「…はい」
熒は椅子から降り立ち、目を細めて慎重に頁をめくる雪那の横に立ち、跪こうとする彼女にそのまま進めるように告げた。
「どうしたの?」
数十分ほど経った頃、数頁を残した処でぞんざいにめくり始めたかと思いきや不意に本を閉じた雪那に、熒は問いかけた。雪那はその場に跪き、本を差し出すように持って熒を仰いだ。
「最後は白紙のままでした」
「そう…内容を聞かせてもらえる?」
是と答えた雪那は記されてあった内容を一言一句漏らさぬように話した。
この大陸には四つの国と三つの種族があった。
東に『
『陸龍』『破虎』は戦闘に特化した種族であった。
闘う事が生き甲斐であったと言っても過言ではないほど、闘いを好んでいた。
しかも闘うのは決まって同族とではなく、ほぼ一対一の『陸龍』と『破虎』。
しかしだからと言って、むやみやたらではなく、設けた規則に則っての闘いであり、殺しを善ともせず、他に損害を与えないように心掛ける良識のある種族でもあった。
だからこそ、この二つの種族は『和』とも巧く共存していたのだが。
その関係が一気に悪化した或る事件。『陸龍』『破虎』それぞれに生まれた子ども。一人は銀髪に紅の瞳。一人は金髪に蒼の瞳であった。
幼い頃より秀でた戦闘能力を持っていた彼らは、誰よりもその身に流れる血に忠実であったのだろう。
それぞれが種族の中で最強と謳われた十五の頃。二人は互いを求め、そして出会うや、命を削る闘いを始めた。
己の。相手の。他人の。地の。全ての命を巻き込んだ凄まじい闘いは、このままでは人類は、否、地球そのものまでが死に至るのではと恐怖させるに十分であった。
二人を止めるべく、全ての種族がその闘いに身を投じたが、結果、闘いを邪魔する者と判断された彼らは二人によって殺された。
だがそれでもと、志願する者たち。その中に居た紫の髪に、翠の瞳を持つ者。その人物の登場により、闘いは終わりを告げた。
それから数百年に一度の周期で、それは訪れ、そして必ず終止符を迎えた。
初めての闘いに終止符が打たれた時、闘いによって産み出された甚大な被害により、四つの国は二つの種族を最果ての地へ追いやる事を決めて、双方の種族長も致し方ないと反論することなく、それ以降東西の最果ての地に身を埋めた。
その判断は連帯責任の意は無論ではあるが、抵抗も含んではいた。
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