第5章 頼子の決意

次の日、頼子はまたも同級生の女子から手紙を受け取った。その女子生徒は、前回以上に恐怖の表情を見せていた。

今度のものは差出人が不明だった。しかし筆跡から見るに、女の字だった。



浦島頼子、今日の放課後、校舎裏まで来なさい



とだけ書いてあった。


頼子は震えた。差出人は誰なのか。

「来なさい」という命令口調でこのようなことをいえるのは、自分よりも身分が上位の生徒しかいない。

頼子は3年生だから、下級生でもないだろう。いくら頼子が最下級の身分だとしても、下級生ならもう少し丁寧な言い方をするはずである。

同級生で、しかも自分よりも上位の生徒。


頼子「貞子様…」


なんらかの情報ルートで昨日のジョックスとのことが漏れてしまい、貞子の耳に入ったのだ。

おそらく、粛清(しゅくせい:抹殺すること)されるに違いない。


頼子は遺書を書いた。遺書を机の中に入れておいた。

遺書の内容は、今まで育ててくれた両親へのお礼、理恵と千鶴への感謝の気持ち、自分の墓にはお気に入りのクマさん人形を一緒に入れてほしいこと、そして最後にジョックスへの愛がつづられていた。


頼子は放課後を待つまでもなく、屋上から飛び降りて自殺でもしようかと考えたが、最後の最後にジョックスへの愛を伝えようとする気持ちが残っていた。

せめて最後は女らしく、ジョックスへの愛を叫びながら貞子に殺されよう。その死をもってジョックスに愛を伝えようという、そんな気持ちがあった。


いよいよ放課後になった。頼子は校舎裏で、自分が抹殺されるのを今か今かと待っていた。


だがそこに現れたのは貞子ではなかった。


??「待たせたわね」

頼子「え?…あ、あなたは…!」


それは伽耶子だった。


頼子とてチアである貞子のことはよく知っている。もちろんその側近たちの顔も。


伽耶子「たまたま居合わせちゃったのよね」

頼子「え?な、何のことですか」

伽耶子「盗み見るつもりはなかったんだけどさ、アンタ昨日、ここでジョックスといろいろ話してたわね」

頼子「!!」


頼子は青ざめた。


頼子「覚悟は、できてます…」

伽耶子「ん、そうか」

頼子「一思いに、楽に死なせて」

伽耶子「おいおい、なんでそうなるんだよ」

頼子「え?」

伽耶子「まあ座れ」


伽耶子と頼子は校舎裏の壁にもたれて並んで座った。


伽耶子「まだこのことは貞子様には報告してない」

頼子「え?そうなんですか?」

伽耶子「報告したら死人が出るからな」

頼子「…」


しばらく沈黙が流れた。


伽耶子「私とて鬼じゃない。身分違いの恋でも、両思いなら少しは応援してやりたい気持ちもある」

頼子「え、ほんと?」

伽耶子「ああ、だがその前に、お前の覚悟がどれくらいのものか聞いておきたい」

頼子「私の…覚悟…」

伽耶子「ああ。何しろジョックスと奴隷の交際だ。どうやってもタダではすまない修羅の道だ。お前はどんなことがあってもジョックスと結ばれたいという気持ちはあるか?」

頼子「…」

伽耶子「自分の大事な、あらゆるすべてのものを失ってでも、ジョックスと添い遂げたい…そういう覚悟はあるか?」


頼子はしばらく考えて…そして確固たる決意を持って言った。



頼子「あります!私はジョックスと結ばれるなら、学校をやめてもいい、友達や両親と永遠に会えなくなってもかまわない!バラバラになってもかまわない!それくらいジョックスのことを…想っているんです!」

伽耶子「いい返事だ…いいだろう、私も覚悟を決める!」


伽耶子は1枚の紙を差し出した。

だがその上半分だけ2つ折にしてあり、中の文章が読めなくなっている。

その下半分のところに下線が引いてある。伽耶子はその下線を指差していった。


伽耶子「ここに著名しろ」

頼子「え?著名」

伽耶子「そうだ。今日の日付と、あとお前のクラスと名前を書くんだよ」

頼子「なんでですか?それにこの上半分にはなんて書いてあるの?」

伽耶子「いいから書けっての。ジョックスと結ばれたいんだろ?」

頼子「…わかりました」



2010年11月9日 3年2組 浦島頼子



伽耶子「これでよし」

頼子「ねえ、この上半分には何が書いてあるの?」

伽耶子「うるさいな、お前は知らなくていいんだよ」

頼子「お願い見せて!お願い!」

伽耶子「しょうがないな…」


伽耶子が2つ折にしてある部分を開いた。文章は全部合わせるとこうなる。



果たし状


親愛なる貞子様へ


女の世界は美しさがすべて、美しさこそ勝負だということを思い知りなさい。

あなたはあまりにも容姿が醜すぎて、到底ジョックスとはつりあわないわ。

ジョックスとあなたが二人でいたら、まるで天使とオオサンショウウオが並んで歩いているみたいじゃない!とてつもないわ!


ジョックスの愛は私のものよ。

私とジョックスが二人で愛を語り合っているのを傍から見て、せいぜい歯ぎしりでもしてなさい。

あなたはオスのコモドドラゴンと交尾でもしているのがお似合いだわ。あなたの体型なら頑丈な卵が産めそうね!


明日の放課後、天上橋の下まで来なさい?そこで決着をつけてあげるわ。


2010年11月9日 3年2組 浦島頼子



頼子「…」

伽耶子「奴隷はジョックスとは結ばれない。でもこの規則にはたった一つだけ例外が許されているのよ。それはその者がチアと決闘をし、勝利すればいい。そうすれば奴隷でさえ、ジョックスを手に入れられるのよ!」

頼子「え?…あ…え?」

伽耶子「内容はわかったわね。じゃあ明日の放課後、天上橋の下まで来るのよ」

頼子「あ、あの…え?」

伽耶子「仲間は2人まで連れてきてもいいわ。じゃあまた明日」

頼子「え…ちょ…!!」

伽耶子「ああそれと、遺書は書いておきなさい。お墓くらいは作ってあげるわ」


伽耶子は行ってしまった。

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