寵愛を受ける者の憂鬱 その1

そんな会話をしている中で部屋に誰かが入って来る...サヴェリオ陛下だわ!


私とお兄様は深く頭を下げる...そう...エステルお姉様はサヴェリオ陛下の妻で妃の一人となる方だもの、本来なら勝手に会うことなど出来ないから。


「エステル...倒れたと聞いたが大丈夫か?」


サヴェリオ陛下はエステルお姉様に駆け寄る、冷徹で表情を崩す事の無い陛下が心配そうな声でお姉様に話しかけるわ。


「ええ...」


「そうか...」


ちょっとだけ顔を上げて陛下とお姉様に目をやると、陛下がお姉様を抱きしめているわ!


あんなに愛おしそうな目でお姉様を見つめるなんて、サヴェリオ陛下はエステルお姉様が本当に好きなのね。


でも、何だかお姉様の表情は硬いわ...好きで陛下の元にいる訳じゃ無いって事なのかしら?


そう思っている内に陛下が此方を向くから、深く頭を下げる。


「アルカンタル侯シルヴィオとバレンティナ...余の妻に何様か?」


その声は冷たい...背筋がざわりとするわ。


「エマヌエーレ...バレンティナは私の弟の妻となる身...もう身内なのです、それに私を助けてくれたのはバレンティナなのです」


エステルお姉様はそう言うと、陛下はそうか、と言って私達に顔を上げる様に促す。


「そうよな...そうなれば其方等二人も余の親族となるものな」


笑顔を浮かべながらそう話す...確か陛下の言っている通りだわ、もしかしてそれも見越して今回爵位が上がる話もあったのかしら?


「至極光栄にございます」


お兄様がいつになく丁寧に話をするわね。


「シルヴィオ...そこまで畏まるな、余との仲ではないか」


陛下は笑いながらお兄様にそう話をするけど、もしかしてサヴェリオ陛下とお兄様って結構近い関係にあるのかしら?


「バレンティナも...特に其方は余の義妹となるのだ...それにエステルを助けた事感謝するぞ」


陛下は手招きをしているわ、お兄様に陛下の近くへ、と促されるので陛下の近くへ寄る。


「エステルもバレンティナも同じ髪色と瞳故かまるで本物の姉妹の様だな...その姿は『生贄の娘』と言われるが...」


そう言ってサヴェリオ陛下が私の頭を撫でるわ!ひゃあ畏れ多いわ!


「エマヌエーレ...」


私が怖がっていると思ったのかお姉様が少し睨むような目で陛下を見つめるわ。


「エステル、バレンティナは其方の弟のモノだ、手出しはせぬ、其方とのはしっかり果たすから心配するな」


「...ええ」


サヴェリオ陛下はエステルお姉様をうっとりと見つめるわ...それにしても約束って何なのかしら?


それと、その二人の姿をお兄様がいつになく切なそうに、目を向けない様にしてる。


そうよね、お兄様はエステルお姉様の事好きだったのだもの...でもそれはマキシムさんも同じ、いえ...長い付き合いがある分マキシムさんの方が辛いのかもしれないわ。


でもエステルお姉様の相手は誰もが手を出す事の出来ない、サヴェリオ陛下の妃となってしまったのだものね。

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