夜会前 その2

エステルはマキシムの目を睨むように見てそう話す。


「...それにね、この結婚に伴って私達姉弟がエアヴァルドの地位を得ることでディビッドはティナちゃんと結婚出来る地位を獲られるのよ、ティナちゃん...次代の預言者でありハイラントの母の一人になるバレンティナを正式に洗礼を受けて貰ってバーレへ迎え入れる為にもね」


「姉上...」


「ま、形ばっかりの婚姻なんだし、今までと変わらないわよ!せいぜい年に何度かウルムに足を運ぶだけなんだから!」


エステルはそう明るく笑うもマキシムの顔は曇り、ディビッドは姉の行動に何か引っかかるものを感じるのだった。


「まぁマキシムは怒るだろうと思ったが...」


アーヴァインはため息を吐く。


ちなみにアーヴァインはエステルの目的は知っていたし、その為にいろいろ動いたのだ。


きっとこの話を本決まり前に話せば、マキシムに止められる可能性があった為ずっと黙っていたのだ。


まさかその場での発表前に悪魔サロスが襲って来るとは夢にも思わなかったし、ある意味そのお陰で国内外にも大きなアピールが出来たのだが。


アーヴァインとマキシムは兄弟とは言え微妙な立場にある。


実を言うとマキシムは前王の正妃から産まれた子でアーヴァインはメイドであった庶子との間の子、本来ならばマキシムこそ正しい王位継承者として立てられる筈だったが、黒髪で王位を継ぐ者に望ましい術士の力を持たなかった為、兄であるアーヴァインが王太子となり、前王が亡き後、王として今立っている。


ただその姿は12番目の預言者と共に国を救った『英雄王』と同じ故にマキシムを王にとの声も未だにある為に兄の治世の為にも...政治の場に現れない様にとマキシムは齢14の時にトラウゴット教の神殿騎士になったのだ。


その時に世話になったのがエステルだ。


エステルとアーヴァインとマキシムは幼少の頃からの顔見知りである。


幼少期からマキシムが年上のエステルに対して憧れを抱いていたのをアーヴァインはずっと知っていたが、まさかエステルの盾となるべく上級異端審問官となるとは思いもよらなかった。


そして突然現れたエステルの弟ディビッドの面倒を見る役割を担い、王族というよりも騎士として生きている姿を見ると、それで良かったのか?と思うのだ。


それこそ『英雄王』は王位を捨てて、12番目の預言者の神殿騎士として常に共にあり一生を終わらせたが、マキシムもそうなってしまうのではないか?と思うのだ...


それこそエステルと同じ翡翠色の髪と薄桃色の瞳の美しい女性であった12番目の預言者に常に寄り添う黒髪碧眼の青年、その姿を思い浮かべてしまうのだ...確かに姿としては美しいが、果たしてそれが幸せなのか?と思うのだ。


マキシムには決して自身の気持ちは報われる事なく終わる人生を送って欲しくはない、と思っている。


なのでアーヴァインは顔をマキシムと顔合わせる際には常に王族に戻って来る様に言う様にしているし、いつでも王族復帰出来る様に大公としての座も常に用意もしていた。


それにエステルががどうなるかと言う事をアーヴァインとエステルの親族であるヘルムート枢機卿には話していたのだ。


アーヴァインは不憫な弟を思い、更にため息を吐いた。

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