銭ゲバ令嬢、なまぐさ司祭に溺愛される

夜会前 その1

あまりの事態の唖然としながら、ディビッド達四人は貴賓室のソファーに座る。

「何で...エステル様は結婚などしないと言っていたのに」

マキシムが青い顔をしながらぽつり、と口に出す。

「...でも姉上は私が現れる前にお見合いをしてた中にはサヴェリオ陛下もいたらしいじゃないですか...」

「え？なにそれ？？？」

ディビッドの言葉にジョナサンが驚く。

「ガキンチョはしらねぇよなぁ...坊ちゃんが現れるまではエステル様がハイラントに続く血統って事でずっとお見合いしてたんすよ、相手が全く見つかんなかったけど」

「まぁどんな絶世の美女って言われてもあの性格ですし、誰も太刀打ち出来ない強さですしね」

「あー」

サミュエルとディビッドの言葉に納得するジョナサン。

「でも何の意味があるんすかねぇ...エステル様今更結婚して子供をってのも？」

とサミュエルが疑問に思う。

「そう言う意味じゃないんですよ、要は政治的パフォーマンスですよ、我々のような悪魔を滅ぼせる『武力』を持つトラウゴット教の繋がりをウルム国内、いえ周辺諸国にも知らしめる為のね」

「せいぜい一部貴族や軍関係者にしか分からない話だったのを多くの目に止まる様にする事に何のメリットが？」

ジョナサンはそう言う。

「...昨今リュシフェルの動が活発です...ウルム国内のこの一年でこれ程の悪魔が出没し犠牲が出ているんです、それはウルム国内だけでは無い事は耳にしているでしょ？」

「ああ」

「我々の悲願はリュシフェルを滅びに至らせるハイラントの誕生もですが、各地に存在している悪魔を滅ぼす事もまた同じくらいに大切な事なのは分かりますよね」

「そうっすね」

「そして悪魔はエアヴァルドやウルムだけでなく、他の国にも出没し甚大な被害を生み出している...その足掛かりとして北の大国ウルムにトラウゴット教を根付かせる...その理由は...」

「トラウゴット教をエアヴァルドやウルム以外での各地で更に広めて活動の場を広げる事を目的としてるわけよ、その為の形だけの結婚よ」

ディビッドの話を途中遮る声、エステルとアーバインが部屋に戻って来たのだ。

「姉上」

「エステル様！」

ディビッド達四人はエステルの方に顔を向ける。

「元々その話はあってね、しかもサヴェリオ陛下は悪魔を誰よりも憎んでいるから手をとったわけ...まぁ結婚という形を取れば更に印象付けられるからってね」

エステルはそう言ってソファーへ座る。

「エステル様、サヴェリオ国王には三人の妻に子供までいるんですよ！重婚なんて！」

マキシムはエステルに声を上げる。

「だからよ...私とは白い結婚という形、相手にはもう世継ぎの子がいるもの、子供を望む事はしないのは前提...何か有ればウルムに顔を出す程度の通い妻みたいなものよ」

やれやれと言いたいかの様な態度のエステル。

「それでも...」

「まぁ結婚なんて出来ないと思ってたし、いい経験になるわよ」

「エステル様！」

マキシムは顔を赤くしながら声を荒げる。

「...マキシム...私達の悲願、神の望みは人類の敵である悪魔を全て滅し絶やす事、そしてあの憎き悪魔リュシフェルを唯一滅し倒すハイラントの誕生よ...私はその為になら何だって出来るの」