姉襲来 その5

マキシムはエステルを滞在先のホテルへ連れて帰り、部屋で待っていたエステル姿の影武者と対峙する。


「あまり勝手な事はしないで下さいよ、エステル様...それにサミュエル!貴様も何故エステル様を止めない!」


マキシムはエステルとエステル姿の影武者を嗜める。


「それは仕方ないですわぁ...ボクはエステル様に逆らえませんから」


といつものエステル姿のサミュエルがなんとも軽い調子で男の声で話す。


「サミュエルは早くその姿戻せ!」


「へいへい...」


そう言ってサミュエルは元の姿に戻るとやや長身で細身の男の姿に変化する。


髪は赤みがかった金髪で肩まで伸ばしており、紺色の瞳はタレ目気味の優男、年齢は若くも見えるが実際の所はわからない。


着ている服装もエステルが着ていたローブから、黒と青の司祭服へ変わり、左腕の腕章には青い鎌をモチーフとした紋章が刺繍されている。


「上級異端審問官『青の大鎌』サミュエル・カトラル・ヒューム参上って感じっすかね!」


とくるりと回ってウインクするがマキシムは呆れた目でサミュエルを見る。


「全くふざけおって!ディビッドといい何でこうも不真面目なのだか!」


「ファッ!王子様~あんな甘々な坊ちゃんと一緒にして欲しく無いっす!」


サミュエルは膨れっ面を作ってぷりぷり怒る。


「俺の事も王子様って言うな!俺より年上のくせに!!!もっと落ち着きを持て!」


「年上って言っても7つくらいだし~王子様はボクが若く見えるからって嫉妬しちゃって」


「なんだとこの!」


マキシムとサミュエル双方睨み合う。


「二人とも辞めなさい!」


エステルが二人に割って入る。


「それにしてもサミュエルまで連れて来るとは...」


「えーたまにはボクだって王都に行きたかったんすよ~そもそも坊ちゃんはまぁ仕方ないけど、王子様とガキンチョだってこっち来てるのずるいし~」


「こっちは仕事来てるんだぞ?俺だって本当はバーレに戻りたいけど、ディビッド一人じゃあ碌な事にならんからって事でだな!」


マキシムはある意味ディビッドのお目付役もといストッパーとして来ている面もある...


マキシムが上級異端審問官をやっている理由自体がエステルの盾となる為だったのに、さまざまな事があって今はディビッドの相棒として共に戦う関係にある。


「みんな坊ちゃんに甘いなぁ...どうせ預言じゃ80くらいまで死にゃあしないんだし、もっと崖から突き落とすくらいの事すりゃあ良いのに...」


そう言ってサミュエルは高級なソファーにボスンと座る。


「でもあの子は...」


とエステルは申し訳ない気持ちを沸き上がらせる...実の父親に捨てられ12歳まで孤児院で生活していた事もあり、その罪悪感もあってかどこか甘やかしていた面もあるのは確かである。


なんだかんだで表面上ニコニコしていても実際の所何を考えているのか分からないディビッドを放ってはおけなかったのだ。


「わかってますよ~坊ちゃんは大切なハイラントに繋がる子なんだしね」


とサミュエルはため息を吐く。


ーあの坊ちゃんの為にもならんのに...誰も彼もなぁ


とサミュエルが心の中で呟いた。


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