王宮にて その2

そうしてザナージを去らせた後、サヴェリオは自室に戻る。


ソファーに腰掛け窓の外を見る。


もう随分遅い時間である、外は真っ暗だ。


そんな時、バルコニー側に人影が...女性のシルエットだ。


サヴェリオはその姿を見て目を細める...


「懐かしいな...エステル」


そこに立っていたのは険しい顔をしたエステルだった。


最初出会った時よりも更に美しくなったな...とサヴェリオは思い目を細める。


「12年ぶりかしら?」


エステルは部屋へ入ってくる。


「いや、13年だな...もうすぐ10周年記念式典の季節だ」


「そう...」


「最初に出会って余の事を開口『サヴェリオ陛下』と呼ばれた時の事はよく覚えている...」


くく、とサヴェリオは笑う。


「でも当たったでしょう?実際に...だからあの時ずっと言い続けたのよ」


「まぁそうよな...」


最初に出会って3年後にあのダンダリオンの事件があって、本人の意向に関わらず、国の為にサヴェリオ自身が国王として即位する事になったのだから。


エステルは13年前、サヴェリオが第三王子でまだ軍の指揮官として活動していた時代、とある理由でエアヴァルドで出会っていた。


その時に預言として『貴方が国王になる』と言われたのだ。


ーサヴェリオは思い出す...13年前の出来事を。




サヴェリオは27歳のまだ若い青年の頃。


その時期先代の『白の射手』であったエステルの父が亡くなり上級異端審問官の座に空きのある時期だった。


そう...まだディビッドが発見される前で、父親が亡くなり次世代を見据えて...エステルが婚姻を結ぶ為にお見合いをしていた時期で、その相手の一人がサヴェリオだったのだ。


エアヴァルド、バーレ内にある高級ホテル内で行われた見合いの席での事だった。


王の三男坊で継承者になる兄はもう王太子として父王と治世に関わっており、継承は無いと判断されていた身だが産まれ持った術士の才能故に『兄達よりもサヴェリオを』と言う貴族も多かった。


兄達と争いたくは無いサヴェリオは、それをかわすために自ら軍に入り、婚姻もせずに国の為に忠誠を貫いた。


そんな時、エアヴァルドで尊ばれる預言者でもあるエステルとの見合いの話が出た。


エステルとの婚姻は国同士の強い繋がりともなるとの判断もあり、快諾し見合いをする事になったのだ。


そして何よりサヴェリオ自身がトラウゴット教に興味があった、英雄マテウスの息子として育てられた賢者との盟約、そして代々『白の射手』と呼ばれた存在が悪魔を滅ぼす力を持つことに...


そうして初めて出会ったエステルはまだ17歳の美しい少女であり、一目でサヴェリオの心は掴まれたのだ。


まるでこの世の者とは思えない美しい顔(かんばせ)に宝石のような薄桃色の瞳と翡翠のような髪はサラサラとしており聖職者らしく肩までしか伸ばしていない。


この少女の夫になるのならそれも悪くないと思った瞬間だった。


「サヴェリオ陛下、陛下はウルムの国王陛下になる、そうなるとエアヴァルドに残る事は無理だから私との婚姻は出来ないわ」


そんな美しい少女が初めて口を開いた言葉がそれだったのだ。

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