エルコラーロに安寧を その2

「ありがたい...助かるよ」


ザナージ大尉はディビッドに礼を言うわ。


「ティナ、これを被ってろ...」


とシルヴィオお兄様は自分の帽子を私に被せるわ...


「お兄様」


「此処から先には...『ある』んだろ?」


「...ああ」


ディビッドもだけどきっとお兄様は私に兵士達の遺体を見せたくは無いのね...


お兄様に手を引かれながら先へと進むと更に血の匂いが強くなる...しかも何とも言えない嫌な感覚が身体に走るわ。


ハンカチを取り出して口に当てて澱んだ空気を吸わないようにすると多少はマシになるわ。


「それにしてもシルヴィオ、何故兵士志願でも無い妹君を連れてきた?」


「...どうも彼ら曰く『神託』があったかららしい...俺もその辺は分からん」


お兄様とザナージ大尉の会話...そうよね、ただの貴族令嬢がこんな場所になんてと思うわよね。


「じゃあ妹君は無事だった別の部屋に...」


とザナージ大尉の声...


「...ザナージ大尉、私は大丈夫です...ねぇディビッド...」


「ティナ?」


「私が見なきゃならない事がもしかしたらそれかもしれないもの...でも心細いから一緒に...」


そう言ってディビッドの近くへ、ディビッドは左腕を空けてくれるので、腕を回す。


その時に一瞬頭の中に光景が!


「え!」


きっとこの先に起こる光景が私の頭の中に再現される...そして別の人物の意識が入り込む感覚が!


「どうしました???」


「ディビッド?このまま進んで!」


ディビッドに先に進む様に促す。


「ここから先はあまり...」


「大丈夫ですよ、さぁ行きましょ?」


そう...この頭の中に現れた光景は...直ぐに再現されるから。


エルコラーロ要塞の中庭に入る...中庭は広いけどもそこを埋める程の夥しい数の遺体がシーツなどで覆われて置かれていたわ。


「出来れば丁重に埋葬してやりたいが、数が数でな...」


ザナージ大尉はそう言う。


「酷いものだな...遺体の埋葬はベルガモも兵士も派遣して手伝わせる」


シルヴィオお兄様は周囲を見回しそう言うけども...


「ザナージ大尉、お兄様...大丈夫よ...」


私は帽子を取って二人にそう言う。


「ティナ???」


「ディビッド...貴方が受けた神託には『悪魔を倒す』だけじゃない力も受け取ったんでしょ?」


そう言うとディビッドの目が大きく見開く。


「ティナ...まさか???」


その姿を驚きながら全員が見つめるわ...


「ティナちゃん...」


エステルお姉様も姿を変えてこちらを見るわ。

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