デートの予定を邪魔するなんて許せませんねぇ その2

「ヒィッ!ジャコモ様!」


「あのブラッディヘッドに一泡吹かせる為に妹を痛ぶりたっぷり弄んだ後、奴の前に突き出すつもりだったのに!」


と言い放つと、キィと扉が開く。


「いやぁ聞き捨てならない話ですねぇ」


「誰だぁ!」


スタスタと船長室に入っていく背の高い司祭服の男...


「私のかわいい花嫁にそんな事を考えていたとかとても許せませんねぇ」


少し癖のある茶色の髪は短めで整った顔立ち、そして特に印象的な切長の目でアメジストのような深い紫の瞳のその男の右手には銀色のアーモンドの花と実の彫物があしらわれた銃...


「手下共はどうした!」


「え?あー今頃イナゴに噛み砕かれて意気消沈してますね、あはは」


「イナゴだぁ?」


「ええ...ほら貴方の近くにも」


と司祭服の男はニコニコと笑顔で言うとガサガサと音が聞こえると足元に一匹のイナゴが...しかも通常より大きい。


「は?なんだ虫一匹!」


とジャコモは踏み潰すがその踏み潰した跡からワラワラとイナゴが湧き出すように現れる!


「ヒィ!」


『強欲な者よ、その強欲ゆえに邪悪な企みをくわだてる者よ、その心を神は憎まれる...その者の所有物は全て蝗によって食い荒らされるであろう』


そう司祭服の男は銃を向けて聖典の一節、『蝗の災厄』を述べるとイナゴはブォンと音とともにジャコモに一斉に襲いかかる!


「ぎゃあああああ!」


鉄をも砕く顎を持つイナゴがジャコモの服に髪に肉にと噛み砕く!


「ただでさえティナを攫おうとか腹立たしいのに、折角私との浜辺デートを考えてくれた件すら貴方達のせいでおじゃんになりかけてるんですよねー」


軽くそんな感じで言ってはいるが実際そのアメジストの瞳は全く笑ってない...。


ジャコモはイナゴに噛み砕かれ心身共にボロボロになってバタン!と倒れてしまう。


「ひぃぃ...」


ジャコモの手下はその現場から逃げ出そうとするが、司祭服の男はその長い脚で引っ掛け転ばせる。


「あ!貴方にはこのむさ苦しい海賊以外に仲間がいないか教えて貰うんで!」


とにっこり笑顔を見せる...ジャコモの手下の頭に銃口を向けながら。


この司祭服の男から逃げるなんて絶対に出来ない、とジャコモの手下は青ざめた。


───


その翌朝、幾つかの商船に見せかけた海賊船には、何か虫に齧られたのかボロボロな姿の海賊共が倒れており、海賊の頭と思わしき男は全員それぞれの船のマストから逆さに吊るされていた。


「しかし一体誰がこんな事を...」


と警備兵がその有様を見て呟く。


「あ!目を覚ました奴がなんか発狂しながら『イナゴに襲われた!』って言ってましたよ」


「イナゴ????」


「よっぽど怖かったみたいですね~」


「...まぁ海賊の残党を一網打尽にしたみたいだしラッキーだな」


と警備兵同士がそんな話をしながらそれぞれの職務に...倒れている海賊を縄で縛る作業に勤しむのだった。



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