6. お出かけ日和

「ミサト様、ミサト様」

「どうした?」

 ミサト様は、モニターから視線を外してこちらを振り向きました。


「明日、お出かけしましょう!」

「唐突だな」

 ミサト様は怪訝な顔をしています。

「せっかく、お出かけ用の服も買いましたし!」

「暑い中出歩くのはイヤだぞ」

「まあまあ、そう言わずに。明日は少し涼しいみたいですよ。公園までお散歩して、

 お弁当なんていかがでしょう」

「だがなぁ……」

 季節は夏。日差しも強くなってきていますが、天気予報では明日の最高気温は

少し下がるみたいです。とはいえ、引きこもり気味なミサト様は、

乗り気ではなさそう。

「まあまあ、まあまあ。ずっと家に籠もってるのは良くないですし。

 二人でお出かけしましょうよ」


 椅子の横から抱きつくようにミサト様の肩に腕を回します。背丈の低いミサト様は

肩幅も狭くて細いです。

「ああ、こら。抱きつくな!」

 ジタバタと身をよじっていますが、簡単に押さえることができてしまいます。

しばらく抱きしめたままにしていると、抵抗を諦めたのか、大人しくなってくれました。

「ああ、もう。わかった、わかったから!」

ついでに頭をなでなで。少し癖のある髪は、柔らかくて触れると気持ちがいいです。


「わかったから、離れてほしいんだが……」

 ちょっと恥ずかしそうにしているミサト様がかわいらしくて、

しばらくの間そのままかいぐりしていたら、最後には怒られてしまいました。



                ◆ ◇ ◆



「あ、もうこんな時間ですね」

 鼻歌交じりにお弁当の準備をしてたら、いい時間になっていました。

 一段落ついたところだったので、2階のミサト様の寝室へと向かいます。


「ミサト様、ミサト様、起きてください」

「……ああ、おはよう」

「はい、おはようございます!」

「朝から元気だな……」

「はい! 天気予報通り今日は少し風もあって涼しくなりそうですし、お出かけ日和です!」


 ミサト様はまだ眠そうで、あくびをしています。

「さ、ミサト様、着替えて顔を洗いましょう! あ、お着替えもお手伝いしましょうか?」

 ミサト様がパジャマ代わりにしているTシャツを、脱がしにかがります。

「って、やめろ! 自分で着替える!」

「よいではないかー、よいではないかー」

「よくない!」

 結局、逃げられてしまいました。



                ◆ ◇ ◆



「出かける前から疲れた……」

「えへへ、ごめんなさい」

 ミサト様のジト目を笑ってごまかします。

「それに、やっぱり暑いじゃないか」

 風はありますが、日差しは厳しいです。

「これは、麦わら帽子もありでしたねぇ」

「子供っぽ過ぎるだろう……」

 私的には麦わら正統派美少女なミサト様もいいと思うんですけど……。

ミサト様的には、ちょっとコンプレックスが刺激されてしまうみたいです。


 今日のミサト様は、白のブラウスと水色でのスカートで涼しげなファッションです。

髪は下ろしていただきました。

 私も今日は普通の私服で、ライトグリーンのサマーカーディガンと、

ベージュのロングスカートを着ています。


 ミサト様、かわいらしいです。我ながらいい仕事をしました。

 正直、今日少しテンションが高いのは、単純にお出かけが楽しみというだけではなくて、

実際にこの服を着ているところを、早く見たかったというのもあったりします。


 少し歩くと、住宅街の中に少し広めの公園があります。

 時期的にはそろそろ夏休みが近いというのと、週末ということもあって、

公園は賑わっているみたいです。はしゃいでいる子供たちの声が、

あちこちから聞こえてきます。


 中央の広場からは少し外れて、お散歩しながら木陰で丁度いい場所を探します。

 公園を半周したあたりで、ようやく他の家族連れから離れた場所が空いているのを見つけました。


「ミサト様、どうぞこちらへ」

 持ってきたレジャーシートを敷いて、ミサト様を手招きします。ミサト様は、

遠慮がちに近寄ってくると、私の隣にちょこんと座りました。

「少し早いですが、お昼にしますか?」

「ああ」


 持ってきたバスケットの蓋を開きます。中には用意してきたサンドイッチ。

食べやすいように、小さめにしてみました。具材も定番のツナやタマゴをはじめとして、

それぞれ変えてあります。

 ただ、私はご一緒できないのに、少し作りすぎたかもしれません。反省ですね。


「ミサト様、どうされましたか?」

 視線を追うと、女の子たちが談笑しながら通り過ぎていきました。

見たところ学生さんでしょうか。友達と遊びに行く途中といったところでしょうか。

 ミサト様は視線を外して、サンドイッチを手に取ります。

「いや、なんでもないよ」

 私は、努めて明るい声を出すことにしました。

「では、食べさせてあげますね!」

「いや、自分で食べる!」

 相変わらず、ちょっとつれないミサト様なのでした。

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