5. おしゃれしましょう!

 朝、ミサト様の髪を整えながら、ひとつ提案をしてみました。


「あの、ミサト様。髪、少し切りませんか」

 ミサト様の前髪は結構伸びてしまっていて、前に下ろすと顔を隠してしまうほどです。

「前髪、結構伸びちゃってますし。せめて整えるだけでも」

 ミサト様は、露骨に面倒くさそうな顔になりました。基本的に出不精なミサト様は、

美容院なんかも苦手そうです。


「ほら、これ! 見つけたんですよ!」

 私は、先日見つけたものを取り出します。

 そんなミサト様のためにはこちら、散髪用のはさみセットです!

「もとから、そのつもりだったんじゃないか」

 はさみを見たミサト様はちょっとあきれ顔。私は「えへへ」と笑ってごまかします。

「まあまあ、いいじゃないですか」

「はあ……。まあ、わざわざ切りに行くよりはいいか」


 仕方ないなって感じのミサト様を連れてリビングへ。

 片付けを考えてガレージで見つけたレジャー用シートを敷き、さらに椅子を持ってきて

座ってもらいます。専用のケープはないので、バスタオルを首に巻いて代用です。


 縛っていた髪をほどいて、櫛を通していきます。

 少しウェーブがかかった髪に、霧吹きで軽く水を含ませて。


 ――しょき、しょき。


 切りすぎないように慎重にはさみを走らせます。

 ミサト様は、くすぐったいのか時折肩をピクリ。

「あまり、動きすぎないでくださいね」

「昔から、苦手なんだ……」

 ばつが悪そうにそう言う姿がかわいらしくて、「ふふ」と笑みをもらして

しまいました。

「すみません、続けますね」

 ミサト様は、今度は少し恥ずかしそうに肩を縮こめて、それでもなるべく、

動かないように気をつけてくれるようです。


 ――しょき、しょき。


「小さかった頃……」

 不意にミサト様がつぶやくように言いました。

「母親に、こうやって髪を切ってもらっていた事があるよ」

「はい」

 しんみりとした声色のミサト様に、私はそう応えるだけにしておきました。


 ――しょき、しょき。


 黙々と、はさみを動かしていきます。後ろ髪を整えて、前髪は眉にかかるぐらいの長さに。

 誰かの髪を切った経験はなかったので、髪の切り方を確認しながらの作業です。


 全体のバランスをチェックして……。うん、こんなものでしょうか。

初めてにしては上出来だと思います。


「ミサト様、終わりました」

 手鏡を前に差し出します。

 ミサト様は右手で、前髪を少しだけくるくるといじって……。

「うん、ありがとう」

 いつもより優しい笑みを浮かべました。



                ◆ ◇ ◆



「で、今度は何なんだ」

「まあまあ、いいじゃないですか」

「またそれか……」

 簡単に後片付けを終えたあと、シャワーで体についた髪を流してきたミサト様を、

また捕まえました。

 リビングの大きめなモニターには、あらかじめショッピングサイトが開いてあります。


「はい、ミサト様、こちらを向いてください」

 ミサト様は、よくわからないといった顔のまま、とりあえず私の前に立ってくれます。

 よし、画像データ取得完了! そして、あっぷろーど!


 サイトを操作していくと、画面にはミサト様の姿が現れます。今し方送信した、

私の視覚情報データを元に表示されたものです。

 そして、横のメニューをポチポチと選んで……。

「あ、いいですね! カワイイです!」

 画面の中のミサト様が、白のワンピースに麦わら帽子の姿に変わりました。

正統派美少女の完成です。


「なっ、何してるんだ」

 ミサト様に顔を赤くしながら、視線で抗議されてしまいましたが、

気にせず続行しましょう。

「あ、こんなのもいいかもしれません」

 パーカーにショートパンツ。今度はちょっと活発なイメージに。

 ミサト様は、あまり服に興味はないみたいですが、身長はなくても

スラッとしていますし、いろいろと似合いそうです。

「ミサト様、もうちょっとオシャレしてもいいと思うんですよ」

「オシャレって……。私みたいなちんちくりんじゃ何を着ても変わらないだろう」

「いえいえいえ、ミサト様はカワイイじゃないですか」

 ミサト様は、背が低いことがコンプレックスなんでしょう。そんなこと

気にしなくていいと思うんですけど。


「せっかくなので、いろいろ試してみましょうよ!」

 ここは、引き続き少々強引に進めます。

 どんな服がいいでしょうか。おすすめ一覧を上から見ていって……。

あ、この桜色のスカート、カワイイですね。


「ええい、ワタシばかり着せ替え人形にするんじゃない!」

 マウス代わりのリモコンを、奪われてしまいました。

 いつ用意したんでしょうか、私の画像をアップロードしてしまいます。

「ユウカはこんな感じでどうだ」

 あれよあれよという間に、画面の中の私は胸元が大きめに開いた、

ちょっとセクシーな感じの服を着せられてしまいました。


「わわ、それはちょっと大胆すぎませんか」

「いや、これはこれで?」

「微妙に疑問形じゃないですか!」

 きゃいきゃい騒ぎながら、お互いにいろんな服を着せあって。

 いつもとは違う雰囲気で、楽しくなってきてしまいます。それにミサト様も楽しそう。


「あ、これいいですね」

「ちょっと子供っぽくないか?」

「そんなことないと思いますけど」


「ユウカは、この辺とかどうだ?」

「って、なんで露出多めなものばかり選ぶんですか!?」


 そして、結構な時間をかけて、お互いにいろいろ着せ替えしあった結果、

いくつか気に入ったものを購入することになったのでした。

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