第106話 2歳半編⑰
ついにこのときがやってきました。
海の隠れ家で見つけた隠し部屋。
この本邸とまったく同じ造りのあのおうちと同じように、階段下の物置部屋床から降りていく地下室。
同じ扉と同じ、とは言えない、扉のくぼみ。
僕は届かないから、まずは枠をゴーダンにはめてもらった。
串に刺した玉は、それぞれ、アンナ、ミラ姉、ヨシュ兄、セイ兄の順に刺して貰って・・・
残念ながら、ここにママはいないけどね。
そして、セイ兄に抱えられた僕は、そのモニュメントに同じ文字を刻む。
5963
前はゴーダンに並べて貰ったんだっけ?
今は、届かなくて抱っこだけど、自分の手で並べられるようにはなった。
僕は、成長しているよ、ご先祖様。
「ごくろうさん」
はじめて、に近いひいじいさんのふざけていて、だけど優しいトラップ。
前と同じように、一呼吸置いてガコンと音がし、取っ手がつるんとした扉に生えてきた。
前と同じようにヨシュ兄が扉を開け・・・今度は前と違って、ゴーダンに入室をとがめられることなく、全員で入室した。
前と同じ場所に、デスクがあった。
僕は、ひいじいさんの日本語ノートを見つけた引き出しを開ける。
そこには、立派な、木でてきた書類入れのような箱があって、その箱には日本語で『ナッタジ商会を後継する者へ』
と書いてあった。
僕は、箱を机の上に出し、蓋に手をかける。
なんだか、小学生のお道具箱みたい、そんな風なとりとめもない感想が出てきた。だって、大きさといい形といい、まんま、なんだもん。
蓋を開ける。
おおーっ
僕の後ろから覗いていた、みんなの口からため息のような声が漏れた。
中には、小さな箱、ちょうど指輪かなんかが入っているぐらいの大きさの箱と、一冊のノートが入っていた。
小さな箱を開ける。
これは、印鑑?
一見石にも金属にも見える、知らない材質。
僕はみんなを見上げて、首を傾げる。
「ドラゴンの牙だね。」
え?ドラゴンって、想像上の生き物って言ってなかったっけ?
僕は、発言したアンナに首を傾げた。
「そう言われている物です。」
本当にドラゴンの牙かどうか分からない。けれど、ドラゴンの牙と呼ばれる物理も魔法も通さないと言われるこの物質で出来た特別な印鑑が、王から下賜される証、らしい。これは、ただ一つ、王宮に保管されるとある魔導具によってのみ、文様が転写されるらしい。その魔導具も使い方も、秘技中の秘技。王とその高位の継承者のみが伝承を受け継ぐ謎の魔導具でのみ、このドラゴンの牙は加工が出来る。多くの王からの証明に使われる貴重な道具なんだって。
僕は、その印鑑を手に取った。
ずしりとして、なんだか手に吸い付くみたいだ。
僕は、前世で象牙の実印を触ったことがあったみたいで、あれに少し似ているかな、と、記憶の奥から声がした気がする。
これを持っていること。それがナッタジ商会の権限を持つこと。
その重量以上に、ずしりと重い何かを感じたよ。
僕は、みんなにそれを回してしっかり見て貰おうと思ったんだけど・・・
みんなは揃って首を横に振った。
「それを触っていいのは、ナッタジの者だけだ。」
ゴーダンの声が、いつになく物々しく・・・
みんなの瞳が、家族を見る目から、主を見る目に変わった、なんて気がしたのは、僕の被害妄想なんだろうか。
僕は、なんだかちょっぴり寂しい気になって、でも、なんとなく何かを口に出したら取り返しが付かないような気がして、もう一つの箱の中身を手に取った。
『簿記入門』
表紙には大きくそう書かれていた。
なんだこれ。
僕は表紙をめくる。
「すべての取引はデータ化できる。この世界の住民はこれをまだ理解できないが、同郷の者なら、この意味は分かるだろう。ナッタジ商会を後継する者へ、私の少ない知識を授ける。好きに使え。エッセル・ナッタジ」
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