第105話 2歳半編⑯

 証拠をゲットした翌朝には、僕らパーティは、領都へ向けて出発した。

 ダンシュタの憲兵のボスは一応ザンギ子爵。でも、ザンギ子爵はトレネー領主であるワーレン伯爵に命じられて、代官としてダンシュタを治めているのであって、じっさいの大元のボスはワーレン伯爵。憲兵もザンギ子爵も、大きく言えばワーレン伯爵の配下と言える。

 だから僕らは、ゲットした証拠群をそのままワーレン伯爵へ献上し、正式に裁いて貰おうと考えたんだ。違法収集証拠?この世界にはそんなもんありません。



 僕らが無事ワーレン伯爵へと証拠を渡せた頃、時を同じくして、王都より1通の書面がワーレン伯爵へともたらされていた。

 ミミセリア・ナッタジの生存と、その商人ギルドへの加盟。特例による商人ランクC取得。後見人として親戚筋であるリッチアーダ家の保証。これらを証拠に、ナッタジ商会後継者として推挙する旨の王都商業ギルト長のサイン。後は、王様自らの「よしなに」の一筆と共に、そもそもエッセル個人所有であったナッタジ邸のミミセリアへの早期引き渡し要求。


 エッセルことひいじいさんと個人的に仲の良かったワーレン伯爵は、嬉々として、これらの襲撃事件の解明および、ナッタジ家へのナッタジ商会等各権利の返還を、部下に指示してくれたみたい。


 まずは疑いあり、としてザンギ子爵およびカバヤ親子が拘束された。

 そして、僕らが突き止めた暗部のトップ2人と共に、特にナッタジ襲撃時領都にいた憲兵を召喚。軟禁しつつ、領都の憲兵による尋問が行われた。

 憲兵は、職務命令として当時の記憶を話すように言われたこともあり、事件概要はかなり素早く献上されたらしい。


 ナッタジ襲撃事件の時は、実は暗部としてはそれほど動いていなかったんだって。トップの2人が個人的にザンギ子爵に取り入り、憲兵仲間や冒険者、傭兵崩れなんかもかき集めて、襲撃を行ったみたいなんだ。その時の業績で2人は出世したんだって。手伝わせた人を中心に暗部をてこ入れ、ザンギ子爵の子飼いっぽく組み直したらしい。


 もちろん、ザンギ子爵の目当ては、ダンシュタどころかトレネーでも有数のナッタジ商会から得られるお金。ナッタジ家を亡き者にしたら、番頭のカバヤを中心に利益を吸い上げ、そのお金を元に、一大勢力を築き上げる。そうして、ダンシュタのような田舎町ではなく、もっと実入りのいい領地の代官に推挙してもらう、というのが、彼の皮算用だったらしい。


 どっちにしても、暗部を使ってのナッタジ家襲撃を命じたのは、ザンギ子爵、という証拠は挙げられた。また、ついでに、と言っては何だけど、僕たちを掠うためにミサリタノボア子爵邸を襲撃したという証言も得られている。ちなみに、僕らとは関係ないから、と放置した他の日時の書類から、別の襲撃事件や陰謀の証拠もゲットできたようで、余罪はまだまだ溢れているようです。



 カバヤ親子を拘束したのはダンシュタの憲兵だった。まぁ、まともな人もいるし、というか、ほとんどそんなにやる気はなくても、一応は真面目な人が多いし、領都から直接命令を受けての、調査だからね。

 ナッタジ家襲撃にはカバヤしか関わっていない。まぁ、年齢的に考えて当然だね。息子のアクゼはママと3つしか変わらないから。でも、この親子、あくどいことで町中で恨まれてるからね、調べずともいくらでも罪状は出てくる。だまして身代を取り上げるなんて日常茶飯事。息子のアクゼはご存じの通り、女と見たら見境なし。母親のナオさんが死んでから、甘やかされ放題やりたい放題。こいつが父親だと思うと、自分の血すら憎くなるほど。

 そんな悪事満載だったけど、みんなナッタジの財力とザンギ子爵が手を回しての証拠隠滅のおかげで泣き寝入りしていたみたい。だけど、もうその必要はなくなったね。ドバドバと証言が出てきたよ。



 ザンギ子爵が拘束されたことにより、ダンシュタに代官が不在になった。なぜか、代官代理として任命されたのが、領地がなくてとっても欲しがってたミサリタノボア子爵だった。

 なぜか、ワーレン伯爵や領都のギルド長からもお願いされて、僕ら宵の明星が、ミサリタノボア子爵の護衛依頼を受けて、領都からダンシュタへと戻ることになったんだ。

 ミサリタノボア子爵はご機嫌だった。

 「また、このメンバーと会えるなんて、いやあ、嬉しいね。ダー君も、大きくなって、立派になったね。」

 道中、子爵はご機嫌だ。

 「ああ、僕のことはご主人様と、もう呼ばなくていいよ。なんたって、僕は奴隷解放主義者なんだからね。」

 なんだ、それ?

 「人は物や家畜じゃない。奴隷なんていない方がいいんだ。僕はね、すべての奴隷を解放したよ。多くの奴隷を持っていた過去の自分が情けないよ。」


 なんなんだろう・・・

 でも確かに、執事として同行しているジャンの首から奴隷契約の魔方陣が、よく見ると、消えていた。他にも見知った顔が執事やメイドとしているけど、誰にも奴隷契約の魔方陣は描かれていないみたい。

 ジャンが、困惑する僕たちに頷きながら言った。


 「旦那様は、すべての奴隷を解放し、本人の希望で就職先を斡旋してくださいました。我々は望んで旦那様に雇われております。」


 へぇ、意外、というかこんだけ人望があるの?奴隷だった人達もかなりの人数、この場にいるよね。


 「しかも、奴隷商から奴隷を買っては、その奴隷契約を解くという活動を始められました。今では共感する貴族様が多数おられ、活動を共になさってます。」


 「人をコレクションしようなんて、思い上がっていたのさ。君たち親子が生き生きと生きているのをみて、人はその人らしく人生を謳歌すべきだと思ったんだ。君たちのおかげだよ。こんな風に思えるなんて。僕は、僕らしく出世する。魔法が使えなくても、僕は立派な貴族としての誇りがあるからね。」


 この人、魔法が苦手でプライドと劣等感をこじらせているだけで、魔法を使える者を奴隷としてコレクションしたがることを除ければ、まぁ優秀な人、ではあるんだろうね。この人のおかげで、宵の明星は出会えたんだし・・・

 苦手意識はあるけど、今のところ僕らに対して悪くするつもりはない、みたい。


 何よりも良かったのは、ダンシュタに到着して、僕らパーティにナッタジ邸の確保および保持の権限を与えてくれたこと。

 うんよく分かってる。



 こうして、元番頭親子が自分のものとして使用していたナッタジ邸は、僕らへと引き渡され、僕の仲間だった家畜奴隷たちと再会。当然、奴隷の足輪はその場で廃棄して貰い、彼らは自由の身となった、んだけど・・・


 彼らの多くは、この家畜小屋を出ていくことを拒んだんだ。

 僕としては、居場所が見つかるまで、本邸の部屋を使って欲しいのだけど、どうしても聞き入れてくれず、とりあえず、寝床や服の差し入れだけで、あきらめるほかはなかったんだ・・・

 なんなんだろうねぇ。

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