第104話 2歳半編⑮

 さてさて、成果です。


 想像以上に出てきたよ。


 まずヨシュ兄の憲兵の詰め所にある隠し部屋。


 中に入ると、1組の机と椅子、そして資料棚がたくさんあった。

 資料棚には木でてきた箱がいっぱいあって、外側には年代らしい数字が書かれてあったんだって。箱の中はノートというか、木の板や皮を中心にしたこちらで言う紙に、日付に名前と場所、金額が書かれたものがたくさん入ってた。どうやら、出張の精算書?的なもの、みたい。あとは怪しげな武器が入ったものとか、どこかの地図とか、まぁ、直接僕らには関係ないもの。


 出張の精算書が何に役立つかって?

 襲撃前後の日にその場所に行ってるのが分かれば、因果関係ての?そういうのが分かるらしい。人の名前が書いているから、その人にピンポイントに尋ねることもできるし、また、どのくらいの規模の襲撃かも分かる、立派な資料だよ。


 ということで、ナッタジ家の襲撃事件の日と、ミサリタノボア子爵邸襲撃事件の日、それぞれ前後1週間分の日付の精算書、ゲットしてきたよ。



 一方、セイ兄たちのザンギ子爵邸。

 地下の秘密の部屋は、暖炉があったり、とってもゴージャスだったらしいよ。

 もう一つの応接室、といった感じだったって。

 そして、大きなデスクの鍵のかかった引き出しと、高級そうな肖像画の裏の壁、というベタな場所に隠し扉を見つけたのと・・・

 ただ、行ったのがセイ兄で、残念ながら鍵開けの技術ないんだよね。

 そこで、さっさと自分の持ち場を済ませたヨシュ兄がそのままザンギ邸にも侵入、無事、ゲットしましたよ、すごい契約書群。


 まず机の中には、いろんな人達へ、お金を貸し付けている借用書がいっぱい入っていた。これに使われているのは動物の革で作った紙だね。貴族仲間、というか、まぁ弱みを握っている貴族の名が、これで分かったかな?後は意外と多い商人。主にダンシュタと領都の商人に貸し付けているみたいだけど、暴利も甚だしいね。


 もう1つの肖像画の裏の壁。こちらは本命だったね。

 1つはさっきのお金を貸している貴族と被る名前も多かったけど、相互扶助=何かあったら味方になるよ、という契約書が中心。その中にはなんとナッタジ商会のものがあった。名前はカバヤだったから、正式にはこれは他の契約書とは一線を画していたけどね。

 他の契約書、魔法による拘束がされた契約書だったんだ。ナッタジは商会名で契約できない(カバヤは本当の意味で当主じゃないからね)から、魔法契約はなされていなかった。そこはちょっとホッとするところ。だって魔法の契約だったら、最悪の場合死ぬことになるからね。幸い、ここにあるものでは、そこまですごい契約ではなくて、家財の所有権譲渡、というものになってた。魔力による所有権の顕示という技があり、高価な物にはそれを施しているものもあるんだ。その魔力の書き換えが行われる、ということだね。これはすごい技みたいに見えるけど、この所有権主張の魔力は特別な魔導具か、そういうスキル的な魔法を持ってないとわからないから、いざという時の裁判所での主張以外にはそんなに役立つ物ではない。けど、逆に裁判したら、誰の物、と確定できるから、貴族やお金持ちはそういうマーキングをしたりする。


 まあ、難しいことは別として、この契約書で、裏切ったら高価なもん貰っちゃうよ、という、そういう書類。前世での抵当権に近いかもね。貴族にお金を貸して、代わりにいざという時味方になってもらう。裏切ったら財産貰う、そういうことをいっぱいやってる、ということだね。


 ナッタジというか、カバヤとの契約はちょっと違う。

 なんと、カバヤの後ろ盾になり、代わりに税金とは別にナッタジ商会の儲けの2割もを、ザンギ子爵個人へ寄付する、そんな契約書だった。

 うわぁ、と思うけど、商人や芸人の後ろ盾に貴族がなるにあたっては、それほど珍しい契約ではない。ただし、問題はその日付。


 ナッタジ家襲撃の日の3ヶ月近く前の日付で、その契約は結ばれていたんだ。


 うん、そう。当時のナッタジ商会の当主=会頭は、その人だったにも関わらず・・・・

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る