第96話 2歳半編⑦

 憲兵の詰め所は、ザンギ子爵邸の隣にあります。

 ザンギ子爵邸とはいえ、ここに子爵がいることはほとんどない。

 こんな田舎の町は自分にふさわしくないと言って、ほとんど領都の自宅で住んでいるんだ。

 ザンギ子爵邸の庭と憲兵の訓練施設の運動場は繋がっている。

 いざという時に憲兵に守ってもらうため、なんだって。


 広場で憲兵に保護された僕は、詰め所の憲兵控え室にいた。

 もちろん、保護されたのは作戦だよ。

 アンナ&ヨシュ兄プロデュースの作戦だったけど、いや、こんなに、はまるとはね。

 僕に課せられたミッション。それは潜入。

 憲兵の詰め所で、何らかの書類を確保せよ!というもの。

 まさか、僕みたいな子が、スパイ行為するとは思わないでしょ?保護される形で、憲兵詰め所に潜入。好奇心旺盛な子供として、各所に入り、建物内および配置人数を把握。ここまでで、一応最低クリア。

 さらに過去の書類の保管場所や保管方法を確認できれば、尚良し。

 最良は、その書類から証拠をゲット!


 演技指導はミラ姉&セイ兄。

 はじめは遠慮がちに。遊び始めたら大胆に。

 上目遣いは必須。

 少しはしゃいで、スキンシップ。

 僕はかわいいから、絶対憲兵達をメロメロに出来る。

 ・・・・だそうだ。


 可愛いっていっても、乳幼児なら誰でもかわいいと思うよね、と言ったら、二人曰く、僕は可愛いのレベルが違う、らしい。身内びいきだよ、と思うけど、ヨシュ兄が「魅了系の魔法を使っても、ダー君に勝てる人はいませんよ。」と、口を挟んできた。このあたりは、検証は今後、だよね。今までみんな可愛い可愛いと言ってくれたけど、そりゃ、なつく赤ん坊は誰でも可愛いから、証拠にはなんないよ。てか、男の僕が可愛くても、ねぇ。まぁ不細工よりはいいのか、な?



 てことで、作戦決行。


 今は、おとなしく、控え室で馬鹿話をしている憲兵たちを、座らされた木のベンチで足をブラブラさせながら、見ていた。

 そこそこ出入りも多く、新しく入ってきた憲兵は、僕のことを見て、いろいろ仲間に聞いている。

 「親の買い物中に、店を飛び出して、迷子になったらしい。」

 新しく入ってきた若い男女のペアに、寝転がって休憩していたおじさん憲兵が言った。

 「おとなしくていい子そうなんだが、おまえら、親が見つかるまで、世話頼むわ。」

 何故か、その二人に僕を押しつけるおじさん。

 チラチラと見ていた、僕の視線に、どうやら罪悪感を覚えたよう。いいんだよ。お仕事で疲れてるんなら、ごろごろしてても。

 なんとなく、そういうことだろう、と察した男女の憲兵さん。

 お互いに目を合わせ、首をすくめると、僕の元へとやってきた。


 「こんにちは。僕、お名前は?」

 「アレク。」

 「アレク君か。お姉ちゃんと遊ぶ?」

 「・・・別にいい。」

 「じゃあ、僕と遊ぶかい?」

 「・・・」

 「三人で遊ぶ?」

 僕は、二人の腰に差している剣を見る。

 「何?これ触りたいの?」

 「いいの?」

 「あー、危ないから、ここだけな。」

 男の方が、握り手をそっと差し出した。僕はおそるおそるそれをつつき、やがて触ると、にぎにぎした。

 ニパッ。

 僕は、持ち主に満面の笑顔を向ける。ありがと、と、嬉しいの気持ちをしっかりのせて。(by セイ兄)

 男の憲兵さん、ちょっとひるんだよ。

 女の憲兵さんは、「かわいい!」と、嬌声を上げた。

 二人はねもう僕にメロメロ、のハズ。

 セイ兄たちの作戦通り、ならね。


 「あー、武器は危ないから、他のことして遊ぼうか?」

 「何がしたい?」

 僕は、首を傾げて、考えるふりをした。

 「かくれんぼ!」

 男女二人(名前はジップとララだって)は、いいねぇ、と言いながら防具と武具を置きに行く。その間に僕は、ということで、階段を駆け上がる。

 よし、これで堂々と、建物のマッピングが出来るね。フフ、まずはジップのお兄さんが鬼だって。ちなみにこの世界のかくれんぼ、見つかっても捕まらなければ、負けじゃない。見つかったら逃げて逃げて、逃げ込んじゃうもんね。


 僕は、とにかく上へ上へと最上階まで上がった。一番上は4階だね。あとは壁につけられたはしごで屋上へ上がれそう。はしごは僕の手が届かない上の方から始まっている。けど、僕は魔法で身体強化&ジャンプ。ちょっぴり重力も減らしてあげると、簡単にとりつけるよ。

 僕はそおっと、かんぬき型の鍵を開け、天井を押し上げた。普通の2歳の子なら重いだろうその天井は、ゴーダンでも通れそうな真四角の扉になっていて、屋上からもかんぬきで開閉できるようになっていた。うん、ここからの潜入なら簡単そうだね。

 僕は、手はず通り、近くにいるはずのヨシュ兄へ、念話を送った。


 そうなんだ。僕が動き回って、ヨシュ兄が離れた場所でそれをマッピングする。僕の足で何歩、とか、階段何段、とか、窓まで僕が手を伸ばしたどのくらい、とか、測り方をいっしょに工夫して、訓練してきたんだ。僕の体を使った正確3Dマッピング。今回の秘密兵器だよ。


 僕は、ラッキーにも、簡単に潜入できそうなルートを見つけると、急いで、屋内に戻った。

 とにかく端から部屋をチェックする作戦。

 が、4階の部屋。

 すべて鍵がかかってたよ。

 僕は廊下の長さと幅だけを伝えて、3階へと移動した。

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