第95話 2歳半編⑥

 ダンシュタです。

 僕が産まれた所は、地域的にはここに含まれる。

 で、ダンシュタです。

 ハハハ、これ、僕もこれ責任あるよね。

 着いてそうそう、現実逃避をしたくなった、ダンシュタです。

 ダンシュタから、少し先に行くと、ナッタジの本邸があります。

 この本邸の中にある家畜小屋で、僕は産まれ、育ったんだよね。

 さらにその先には、ナッタジの持つ畑とかあって、さらに先には小さな村がある。

 ぼくら家畜奴隷が許されていた活動範囲は、ナッタジ本邸から、先の村まで。だから、ここダンシュタを僕が訪れるのは、僕らが売られた後、買い主のミサリタノボア子爵が用事で訪れたために宿泊した、その1回のみ。

 あの頃は、まだ、ここまでではなかったな。いや、村の方はこんな感じだったか・・・・


 僕が何を現実逃避しているか?

 いやね、男女問わず、独特のおしゃれが流行っているんですよ。

 ダンシュタ帽。またの名を妖精の帽子。これを被ると賢くなる、そんな曰く付きの帽子です。

 前世のナイトキャップです。はい。僕の責任、なのかなぁ。

 村でもうわぁ、と思ったけど、町レベルの人たちだと、なおシュール・・・

 そうでもないのかな。ここまで来たら文化・・・

 布製だけじゃなく革製のもあったりして。布とのコラボもあったり。色も工夫が・・・

 切り込み入れる所の先を長さ変えておしゃれにしてるのも・・・

 うん。ナイトキャップとか思うから、可笑しく感じるだけ。こんなもんだ、と言ったらこんなもん。僕の独特の髪色を隠せるし、現地の人に早変わりだ!て、現地の人、なんだけどね。そもそも僕の髪色を隠すために作った帽子だ。


 ということで、僕はダンシュタ帽を購入。そして、いっしょに、この世界で一般的な、だけど、それなりに裕福そうなお坊ちゃん風の衣装も買いました。少し大きめのダンシュタ帽は髪だけでなく、顔もかなり隠してくれて、ほとんど目立たない、はず・・・


 ただし、これがひとりぼっちで、広場でオロオロしていれば話は別。

 僕は、武器も持たず、防具も着けず、ふつうの服を着て、不安げに広場をうろついています。僕はまもなく3歳になる、まぁ赤ちゃんから幼児にいたる微妙なお年頃。何のお年頃かって?迷子だったら救って上げたいな、と思われるお年頃です。

 この世界、僕ぐらいの子が、一人でウロウロしてたら捨て子とか思われるし、広場、と言う名の屋台や露天商がぼちぼちあるエリアだと、盗みを警戒される。大人達は、ほとんど気にしないか、迷惑がって、シッシッと追い立てる。

 一応、養護施設がないわけじゃない。憲兵とか、親切な人とかは、そんな所に連れて行ってくれることも、まぁマレだけどもないことはない。


 でも、今、僕はそんな目にはあっていない。

 おそらくは着ている服が、ちょっといいもの、だから。

 貴族とは違う、庶民だけどマシな身なり。

 そこそこ金持ちの子、に見えれば、店をしている人たちも、町を歩く人たちも、あの子大丈夫かなぁ、なんて目で見てくれる、ハズ。

 ほら、親切そうな屋台のおばさん。

 ジュースを片手に僕の所にやってきたよ。


 「僕、ひとりでどうしたの。」

 僕は、おずおずと上目遣いでおばさんを見ながら、後ずさる。

 おばさんは困ったような顔をして、一歩近づくと、僕の目線に会わせて、しゃがみ込んだ。

 「親御さんは、いる?」

 「ちらない人と、しゃべったら、メッです。」

 僕は、いつもよりおバカにしゃべってみる。

 「おやおや、賢いねぇ。おばちゃんは、あそこでご飯を売ってるメグさんです。さ、もう知らない人じゃないだろ?僕の名前は何かな?」

 「・・・アレク・・・」

 僕は、ひいじいさんのつけた名を名乗る。ダーよりも、お金持ちの子っぽいからね。

 「そうアレクちゃん。ジュースはいかが?」

 「・・・いいの?」

 「はい、おばちゃんのおごり。代わりに、アレクちゃんのこと聞いていい?」

 僕は、おずおずとジュースを受け取り、小さく頷いた。

 「じゃあね、まずアレクちゃんの親御さんは、今、どこにいるのかな?」

 「親御さん?おかたまとおとたま?」

 「そう呼んでんのかな?」

 おばさんの目がさらに優しくなったね。

 「うん。おかたまたちは、お店でちゅ。」

 「お店?」

 「お洋服買う。」

 「どうしてアレクちゃんは、一人でここにいるのかな?」

 「んー、怒らない?」

 「怒らないから言ってみて。」

 「おかたま、お洋服見るの長いでしゅ。待ってたけど、お外に猫がいて、一緒に遊ぼって。おっかけっこしたでしゅ。」

 「その猫は?」

 僕は首を振った。

 「お店の場所は分かる?」

 首を振る。

 「お店の名前は?」

 首を振る。

 うーん、と、おばさんは考え込んだ。

 「ねぇ、アレクちゃんは、どこに住んでるの?」

 「おうちは、川の見えるとこ。お城の山の近くでちゅ。すっごく遠いでしゅ。」


 僕と、おばさんが、そんな話をしていたら、ゾロゾロと暇な店主や町の人が集まってきていた。

 その内の一人が「それって王都じゃないか?」と言う。

 「王都で城の見える川の側っていや、金持ちの住むところだ。」

 ざわざわと、勝手に言い始める人々。

 僕が王都から来た金持ちの息子で、親の買い物に飽きて、一人で飛び出してきた迷子だ、という、こっちが考えた通りのストーリーを描いてくれる。

 そのうち、誰かが呼んできた憲兵がかけつけてきた。

 僕は無事、憲兵の詰め所で預かられることになり、僕を探しているであろう親の捜索が始まった。


 「きっと、見つけたら謝礼がもらえるぞ。」

 そんな風に広場で盛り上がっている人たちへ。

 だましてご免ね、てへっ。

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