第94話 2歳半編⑤
4日後。
ギルドにミサリタノボア子爵邸へと来るように、伝言が入っていた。
ゴーダンとミラ姉が、2人で出かけていったよ。
考えてみれば複雑。
僕を取り逃がしたことで、クビになった二人が、雁首揃えて、僕のことを話にやってきた、ってことだもんね。あの劣等感とプライドの塊の子爵様が、キレないか、ちょっと不安だよね。
この一年で、ミサリタノボア子爵も随分環境が変わったらしい。
襲撃事件で、それなりの被害を受けて、経済的な打撃を受けた。また、優秀な兵士がトップからごっそり抜けて(って、うちのパーティメンバーのことだけどね)、軍事的にも弱体化した。魔力が少なくてその反動で魔導師を奴隷としていっぱいかかえていたけど、一番の自慢の種だった僕ら親子がいなくなったことで、貴族達からの陰口が強くなった。そんな諸々が重なり、いろんな意味で弱体化した子爵だけど、考えてみたら僕がほぼほぼ原因なんで、相当恨まれてるかもね。
そんなわけで、とりあえず僕はお留守番。
ゴーダンは、子爵にとってはもともと有名人を抱えているという自尊心のために雇っていたから、そもそもが上下関係がないとかで、さほど、わだかまりが大きくない。それは、他のメンバーも同じ。そもそも傭兵として抱えられていたから、かなりドライな関係なんだって。今、僕といっしょにいることだって、出奔に時間差があるから、たまたま会って保護した、ぐらいに思われてるかも、だそう。
いや、そんなに世間狭くないでしょう、と、僕は思うんだけど、実際、赤ん坊を連れた子供だけで、ゴーダンたちと会うまでの時間を過ごせる訳がない、というのがこの世の常識、らしい。少なくとも、彼らでない誰か、に保護されるか、ママがそれなりのワルさをやんなきゃ生き延びられないだけの時間は開いていた。この時間差も、ゴーダン達は考えてて、アンナと情報交換してたらしい。本当に頭が下がるよね。
そして、ゴーダン達が帰ってきて、報告会。
やっぱり、トレネーで隠れ住んでた僕たちを、冒険者に戻ろうと町にやってきたゴーダンとたまたま会って仲間にした、というストーリーを勝手に作っていたようです。僕らがいなくなって、派手に心配していたゴーダンの姿は、兵士達に目撃されていたしね。そういえば、はじめて隠れ家に来たとき、ミラ姉たちがそんなこと、言ってた気がする。
しかも、しばらく隠れ家でいた僕らと、先に冒険者になって情報収集してたミラ姉たち元兵士組の、冒険者登録には時間差あったし、で、はじめから共謀していた、とは、考えが及ばなかったみたい。
ゴーダン達も、勝手に勘違いする分には、あえて否定しなかったんだって。
で、どうなったか。
ゴーダンにとって一番大事だと言っていたのが、僕らの所有権の放棄。そう言い切ってくれたのは、純粋に嬉しいね。
これに関しては、僕らが、御前裁判に出席することを条件に、OKをもぎ取ってき
た。僕ら親子はそもそも奴隷待遇ではなかったことになるらしい。
ここら辺は、若干『大人の事情』なるものが入るんだって。
どういうことか。
僕ら親子と子爵の
~ ~ ~
子爵は、明らかな才能が顕現しているにも関わらず、奴隷として使役される僕らの境遇に同情して、カバヤから僕らを買い取った。僕らを立派な魔導師として育て、お国のためにその力を使ってくれるように育てることが、貴族のつとめだ、という立派な志による行動だった。ということで、子爵は引き取った僕らの家畜奴隷の契約は、すぐに破棄した。このことは僕ら(というか年齢的にママだけど)親子も知っていて、子爵には感謝していた。
しかし、僕らの噂を聞きつけた何者かが、僕らを奪おうと襲撃をかけ、僕ら親子は行方不明になった。そのことに責任を感じたゴーダン達が、子爵の命令で、僕らを探すため、冒険者に身をやつし、僕らを探し出し、保護、育てることにした。そして現在に至る。
~ ~ ~
襲撃があった後は、僕らはずっと地下牢で暮らしていたから、一般の家人に会ってないんだよね。だから、襲撃による行方不明っていうストーリーも成り立つとか。行方不明になったというのは体裁が悪いから、隠してたけど実は・・・というストーリーにした方が、子爵は立派な人、という印象操作になるんだって。
僕らの所有を主張するより、子爵にとっては、領主の覚えもめでたくなるし、貴族の評判も上昇するだろう。
なんか、本当とは全然違うけど、これが大人の世界だ、とか言われれば、僕としても頷かなきゃならない、のかなぁ?なんか納得できないけど・・・
僕が不満げな顔をしていると、
「一応、もう一つの方も、前払いとしてもらっている。」
と、ゴーダンは言った。
もう一つの、というのは、ザンギ子爵の裏の私兵の情報だって。
貴族社会には貴族社会なりの裏常識というのがある、らしい。
もともと、暗部と呼ばれるものは、領地持ちの統治事情から発生することが多いようで、ザンギ子爵の持ち駒は、まさに、そのものだ、というのが、ミサリタノボア子爵の考えだそう。
領地を統治する場合、犯罪を取り締まる、というお仕事がある。憲兵とよばれるものがそうで、前世で言う警察だね。警察がつかまえて裁判所で裁く、というルールが、一応、この世界でもある。ただし、ルールのてっぺんは、その土地の支配者。表向きは領主様だけど、代官が治めている土地は、暫定で代官がそのてっぺんだ。一応、領主に直訴、なんてこともできるけど、実際はほぼ代官の命令が優先する。
もちろん、すべてのお裁きに代官自ら結審するわけはないけど、お代官様が出てきたら、お代官様の言うとおり、となる、と思えばいい。
だけど、何もかも自由にできる、というんじゃなくて、代官の上には領主が、領主の上には国王があって、それぞれの法律がある。上から待った!がかかれば、もちろんそっちが優先。てことで、お裁きには、証拠、というのは、一応必要となる。
でもね、証拠がなくても、こいつ犯人だ、とか、犯罪とはいえないけど、こいつがいたら統治に困る、とか、思想がやばい、とか、まぁ、お裁き前になんとかしたい事象なんてのもあるよね。あと、強引に証拠を作って、犯罪者にしたい、とかさ。
そういうことを担う特殊な部署が、どんな町の憲兵にもある、という噂。
ザンギ子爵は、長年、代官職に就いている。先祖代々、それなりに長いこと、だ。
つまりは、ダンシュタの憲兵の暗部、それがおそらくは何らかの形でからんでいる、というのがミサリタノボア子爵の考えなんだって。
まさか、警察官が襲撃犯?というのは、僕にはわかんない感覚だけど、憲兵といえば、お給料は代官からもらうし、暗部みたいなのなら、特殊な教育も受けるだろうから、よりお代官とズブズブな関係でも可笑しくない、というのが、みんなの総意でした。
でも、この情報が絶対、とは言い切れない。
「仮に、これが真実なら、15年も前とはいえ、証拠をみつけられるかもしれません。」
とは、ヨシュ兄の弁。公官なら、書類があるかも、だって。
よし。明日からは、ダンシュタへ行くぞ。
ザンギ子爵がクロなら、ミサリタノボア子爵と共闘する、ということになってるそうです。
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